「護られなかった者たちへ」中山七里著

公開日: 更新日:

 仙台市の老朽化した無人アパートから四肢の自由を奪われ口をふさがれた餓死死体が発見された。被害者は同市の福祉保健事務所課長の三雲。飲まず食わずで放置されるという残忍な手口から怨恨の線で捜査が進められたが、三雲は公私ともに人格者として知られており、物取りの可能性も低い。

 確たる手がかりのない中、今度は県会議員の城之内が同様の手口で殺害される。こちらも清廉潔白を絵に描いたような人物。三雲と城之内の関係を洗っているうちに、服役を終えたばかりの利根という男が浮かび上がってくる。利根は8年前に、知り合いの老婦人の生活保護申請を巡って福祉事務所に乗り込み、暴行の揚げ句事務所に放火したのだ。“善人”とされる2人と利根の間に何があったのか……。

 本書で描かれているのは、日本の生活保護政策の暗部である。法と不法、善と悪、正義と不正、罪と罰といった相反するものが複雑に入り組んでいる福祉行政の現場の問題点を、ミステリーの視点から暴き出した問題作。(NHK出版 1600円+税)


最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    もしやり直せるなら、入学しない…暴力に翻弄されたPL学園野球部の事実上の廃部状態に思うこと

  2. 2

    「たばこ吸ってもいいですか」…新規大会主催者・前澤友作氏に問い合わせて一喝された国内男子ツアーの時代錯誤

  3. 3

    永野芽郁は疑惑晴れずも日曜劇場「キャスター」降板回避か…田中圭・妻の出方次第という見方も

  4. 4

    巨人阿部監督が見切り発車で田中将大に「ローテ当確」出した本当の理由とは???

  5. 5

    「高島屋」の営業利益が過去最高を更新…百貨店衰退期に“独り勝ち”が続く背景

  1. 6

    かつて控えだった同級生は、わずか27歳でなぜPL学園監督になれたのか

  2. 7

    JLPGA専務理事内定が人知れず“降格”に急転!背景に“不適切発言”疑惑と見え隠れする隠蔽体質

  3. 8

    「俳優座」の精神を反故にした無茶苦茶な日本の文化行政

  4. 9

    (72)寅さんをやり込めた、とっておきの「博さん語録」

  5. 10

    第3の男?イケメン俳優が永野芽郁の"不倫記事"をリポストして物議…終わらない騒動