「磐座(いわくら)百選」池田清隆著

公開日: 更新日:

 日本各地の「磐座」を訪ね歩き、日本人の信仰の原点ともいうべき「岩石崇拝」について考察したビジュアル紀行ガイド。

 我々の祖先たちは、石を神の霊力が顕現する仮の宿とみなし「見える岩の向こうに見えない神を観てきた」。こうした岩石信仰は石そのものを神とする石神、石や岩に神がよりつく磐座、そして石で区切られた「空間」に神が降臨する磐境という3つの信仰形態に分類されるという。

 これまで国内350カ所以上の磐座を踏査・巡拝してきたという著者が、後世に伝えるべき100座を選び、案内してくれる。

 北海道小樽市の「忍路環状列石」は、3500年前の縄文後期の遺跡で、わが国最大の規模。150年ほど前に発見されて間もなく、巨石の大半が持ち去られてしまったが、それでも約140個の石が残っており、往時の壮大な姿を偲ぶことができる。墓であり、死者を弔う儀式も行われた場所といわれてきた。しかし、アイヌの人たちが死んだ人の霊魂は墓にはいないと考え、霊魂のいない墓に参る習慣がないと知った著者は、神に感謝をささげ、自分たちの命をつないでくれた神の化身である鳥獣魚類の霊を神の国に送り返す「幣場」だったのではなかったかと推察する。

 岩手県遠野市の石上(石神)山の麓にある「続石」は、巨石の上にさらに大きなおむすび形の笠石が乗ったキノコのような姿をしている。

「遠野物語拾遺」では、この続石は弁慶が石の鳥居を造ろうとして笠石を乗せたとの物語を伝える。2つの巨石の上に乗っているように見える笠石だが、実は絶妙なバランスで片側の石だけに支えられている。鳥居のような造形は、まさに山神の世界とこの世を区切る結界石だと著者は言う。

 山梨県の甲府盆地には大小合わせて数千といわれるほど多くの「丸石神」が祭られている。丸石神の起源は縄文前期にまでさかのぼり、岩石信仰の原点とも思われる。笛吹川流域の秩父往還と呼ばれる旧街道には特に密集しており、今も人々の暮らしに寄り添っている。

 その他、高さ60~70メートル、幅100メートル以上の大岩壁が信仰の対象となっている愛知県新城市・鳳来寺の屏風岩、イザナギとイザナミによる「国生み神話」の中で最初に誕生したオノゴロ島のモデルのひとつとされる紀伊水道・沼島の東岸にそびえる高さ33メートルの「上立神岩」、さらに、そのイザナミの墳墓とされる三重県熊野市の「花の窟神社」の岸壁、菅原道真の怨霊によって朝廷を襲う雷をしばりつけたとの伝説が残る京都・伏見稲荷大社の「剣石(雷石)」、ピラミッドのように平たい石を積み上げた長崎県対馬の「天道法師塔」など。北は北海道から南は沖縄まで全都道府県の磐座をくまなく網羅する。

 古来、人々の信仰を集めてきた磐座は、写真を見ているだけでも、私たちが暮らす空間とは異なる時間と風が流れているような静謐さを感じることができる。(出窓社 3200円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • BOOKSのアクセスランキング

  1. 1

    ひみつの本屋(熱海)商店街の路地で見つけた鍵を借りて入る無人本屋

  2. 2

    人生のどん底から救ってくれた保護猫と過ごした日々「キジトラのテコ」船ヶ山哲著

  3. 3

    柳原滋雄(フリージャーナリスト)なぜ中道改革連合が失敗したかに関心

  4. 4

    「フィジカルAIの衝撃『身体をもった人工知能』は2030年の世界をどう変えるか」田中道昭著/朝日新聞出版(選者:中川淳一郎)

  5. 5

    無謀な戦争の末路(1)イギリスに「東のスターリングラード」と呼ばれた激戦

  1. 6

    「沖縄を語りつぐ」川平朝清、ジョン・カビラ著│川平朝清氏の半生と沖縄への思いを長男ジョン・カビラ氏がインタビュー

  2. 7

    「米国や英国、中国の国歌は敵と戦うことを前提とした歌でいわば民衆の歌でもあったんです」──「国家と反国歌」小島岳彦氏

  3. 8

    野生動物が残したフィールドサインに注意「野生動物の痕跡図鑑」奥山英治著・写真

  4. 9

    「忘れ難い経験をしても、それを言葉にしておかないと、いつか霧のように消えてしまいます」──「刑務所の文章教室」大塚敦子氏

  5. 10

    「赤ずきんの運命、シンデレラの謎」斧原孝守著│さまざまなバリエーションがある赤ずきんの結末

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    WEST.重岡大毅の結婚にファンの怒りと落胆…“祝福されないアイドル”がやらかす「3つの誤算」

  2. 2

    巨人・阿部前監督「9月復帰」情報の真偽…読売グループ内には同情論も、懸案は…?

  3. 3

    中学時代をジャージーで過ごした鈴木奈穂子が、法政大女子高から大学に内部進学してNHK人気アナになるまで

  4. 4

    山本美月は九州の女子校で偏差値トップ「筑紫女学園」から明大農学部へ 祖父も生物教師の“リケジョ”

  5. 5

    北島三郎(4)「毎日が目標です。後ろへは戻れない」 地元・八王子のイベントで生涯現役宣言

  1. 6

    サンド伊達レギュラー14本…40~50代の芸人に仕事集中、「リスク分散」しなかった各局のダメージ度

  2. 7

    桑田真澄氏の発言が波紋 巨人の内部事情暴露のやけっぱち…来季監督の芽は完全消滅か

  3. 8

    狩野舞子は“ジャニーズのガーシー”か? WEST.中間淳太の熱愛発覚で露呈したすさまじい嫌われぶり

  4. 9

    WEST.重岡大毅の授かり婚の事後報告に“騙された”とファン激怒 あの目黒蓮も…今も難しいアイドルの結婚事情

  5. 10

    「24時間マラソン」満身創痍の星野真里が完走も…募金額46%減&ゴール直前の乱入騒動に非難の嵐