「ロバート・キャパ写真集」ICP ロバート・キャパ・アーカイブ編

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 歴史上もっとも重要なフォトジャーナリストのひとりといわれるロバート・キャパの代表作が、手軽に鑑賞できるうれしい文庫サイズの写真集。

 1932年11月27日、デンマークで学生を相手にロシア革命について演説するレオン・トロツキーを撮影したデビュー作から、1954年5月25日、北ベトナムで取材中に地雷を踏んで亡くなる直前に撮影した最後のショットまで。7万点ものネガから厳選した236作品を収録する。

 20世紀の重要な「歴史」の現場に立ち会い、記録してきた氏の作品は、「その独特なスタイルで、ジャーナリズム、映画、出版、政治などの異なった分野と写真との相乗効果を生みだし、写真ジャーナリズムも一つの芸術となり得るという認識を広めた」(ICP=国際写真センター館長・マーク・ルベル氏)。

 1913年にブダペストで生まれたエンドレ・フリードマン(後のキャパ)は、31年に左翼運動に加担した容疑で逮捕され、故郷を追われてベルリンに移住。写真エージェンシーのアシスタントとして働き始め、デビューの翌年にヒトラーの独裁政治を逃れてパリに落ち着く。パリで出会った恋人と架空のアメリカ人写真家「ロバート・キャパ」をつくり出し、恋人がエンドレの作品をキャパの作品として売り込んだことを機に、ロバート・キャパを名乗るようになったという。

 以後、その名を一躍世界中に知らしめた、銃撃された瞬間の「崩れ落ちる兵士」を撮影したスペイン内戦(36~39年)をはじめ、38年には日中戦争(37~41年)、第2次世界大戦(39~45年)、イスラエル独立と第1次中東戦争(48~49年)、そして無念の最期を迎えることになった第1次インドシナ戦争(46~54年)まで。常に最前線に赴き、歴史の証人として、戦争のありのままを世界に伝えた。

 44年6月6日の連合国軍によるノルマンディー上陸作戦を撮影した一連の写真は、第2次世界大戦を記録した写真の最高傑作ともいわれている。

 氏のカメラは最前線だけでなく、戦時下に生きる市井の市民らの暮らしにも向けられる。空襲警報が鳴り響く中、空を見上げながら不安げな表情で避難するビルバオ市民や、大荷物を載せた馬車を押す避難民(スペイン内戦)、ドイツの占領下から解放された喜びに沸くパリ市民や爆撃で焼け出された農民、ドイツ軍を相手に戦って散ったイタリアの高校生兵士の葬儀(第2次世界大戦)など。

 人々に寄り添い、その胸の内までを写真に焼き付けるように撮影したその作品は、氏が戦争で争う双方のどちらでもないカメラを武器にしたもうひとりの兵士だったことを物語っている。

 キャパは、その華麗なる友人関係でも知られる。ヘミングウェーやピカソ、マティスら親交のあった著名人のプライベート写真や、日本(54年)やロシア(47年)などの撮影旅行での作品も収録。

 これまで何度も目にしたことがある有名な写真から、初めて見る氏の作品まで、手軽に私蔵できるチャンス。(岩波書店 1400円+税)

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