土俵どころか美術学校から排除された女性たち

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「問題だらけの女性たち」ジャッキー・フレミング著 松田青子訳/河出書房新社 1200円+税

 先般、大相撲の春巡業で、挨拶中に倒れた市長を助けようとした女性に土俵から下りるよう求める場内放送をした。加えて、宝塚市の女性市長の土俵での挨拶を断り、さらには、ちびっこ相撲での女子児童の参加を認めないなど、相次ぐ相撲協会の「伝統」を盾に取った「女人禁制」の是非が取り沙汰された。協会には言い分があるのだろうが、その底流に、女性は不浄であるという古来の偏見・差別意識があるのは間違いない。

 とはいえ、こうした女性への偏見は日本に限らず世界中に根強くあったし、今もある。本書は、19世紀のビクトリア朝の女性たちがさらされていた偏見と差別の様相を、痛烈な皮肉を込めた文章とイラストで描いたもの。

 いわく、「女性は……何の資格も取得できませんでした。頭が小さかったからです」「女性の脳は小さいだけでなく、……スポンジのような素材でできていました」「女性の生殖器は理性を失わせるもので、娘たちは科学を学ぶことが許されませんでした」等々、PC(ポリティカル・コレクトネス)などどこ吹く風といった差別的な文言が満載。ビクトリア朝期の女性たちは、土俵ではなく、美術学校や天文台から排除されており、女性がものを考えると出産の妨げになり、女性が勉強すると目立って毛の量が減るといった文言まで飛び出してくる。まるで冗談のようだが、いずれも当時流布していた考えで、ルソーやダーウィンといった当代一流の「男性」知識人たちがそうした言動を後押ししていたのである。

 しかつめらしく政治や経済を語っていた紳士諸氏がいかに根拠のない偏見にとらわれていたのかを、これでもかとばかりに列挙する本書を読んでいくと、不快を通り越して、いっそ痛快にさえ思えてくる。だが、某官僚のセクハラ発言などを見ると、これを19世紀の昔話として笑いのめすわけにはいかないようだ。

<狸>

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