「差別の笑い」を描いた人情喜劇

公開日: 更新日:

 アメリカでは「差別」は笑いのネタになる。むろん「差別される側」がやる場合の話だが、トランプ政権の誕生後はイラン系のマズ・ジョブラニとかメキシコ系のルイス・C・Kら「白人以外の移民」のコメディアンが移民蔑視を逆手に取った鋭いジョークで喝采を浴びている。

 そんな風潮を反映したわけではないが、今週末封切りの「ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ」も「差別の笑い」を描いた一本。ただし一味違うのは差別をネタにしながら人情喜劇に持っていくところ。

 主人公はテレビドラマでも人気のパキスタン系のクメイル・ナンジアニ。裕福な一家に育った彼が、親の反対を押し切ってコメディアンになり、あげくに白人女性と結婚した実話を自分自身でユーモラスに演じる。脚本もその奥さんとの共作だが、奥さん役のゾーイ・カザンは「エデンの東」の監督エリア・カザンの孫娘というオマケも。トランプ批判のような政治性はないが、現代の「移民」が社会のあらゆる階層に及ぶことを面白く示した一作だ。

 パキスタン系の移民については興味深い学術研究がいろいろある。

 そのひとつが福田友子著「トランスナショナルなパキスタン人移民の社会的世界」(福村出版 4800円)。

 日本在住のパキスタン人社会を対象に、昔のような出稼ぎ労働者ではなく事業家として世界を相手どる近年の社会事情をたどる。特徴は日本社会への単純同化ではなく、独自の国際的な人脈で動くこと。華僑の客家と同じだろうか。労働力の一方的な受給関係とは違う「移民」の顔である。 
<生井英考>

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高画質は必要ない? 民放各社が撤退検討と報じられた「BS4K」はなぜ失敗したのですか?

  2. 2

    大手家電量販店の創業家がトップに君臨する功罪…ビック、ノジマに続きヨドバシも下請法違反

  3. 3

    落合監督は投手起用に一切ノータッチ。全面的に任せられたオレはやりがいと緊張感があった

  4. 4

    自民党総裁選の“本命”小泉進次郎氏に「不出馬説」が流れた背景

  5. 5

    「二股不倫」永野芽郁の“第3の男”か? 坂口健太郎の業界評…さらに「別の男」が出てくる可能性は

  1. 6

    今思えばあの時から…落合博満さんが“秘密主義”になったワケ

  2. 7

    世界陸上「前髪あり」今田美桜にファンがうなる 「中森明菜の若かりし頃を彷彿」の相似性

  3. 8

    三谷幸喜がスポーツ強豪校だった世田谷学園を選んだワケ 4年前に理系コースを新設した進学校

  4. 9

    広陵暴力問題の闇…名門大学の推薦取り消し相次ぎ、中井監督の母校・大商大が「落ち穂拾い」

  5. 10

    佐々木朗希いったい何様? ロッテ球団スタッフ3人引き抜きメジャー帯同の波紋