著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「僕の母がルーズソックスを」朝倉宏景著

公開日: 更新日:

 朝起きたら母親が17歳の女子高生になっていた――というところから始まる物語だ。前日までは普通の母親だったのに、「あんたさ、マジでどこの誰?」と睨まれたら、16歳の潤平は驚くしかない。どうしたんだ芽衣子さん(潤平は母親を名前で呼んでいる)。「ちゃんと答えなきゃ、刺すよ」と包丁を握りしめて睨んでくるから、わけがわからない。

 中身が女子高生になっただけで、外側は39歳のままだから、鏡を見て「何、何なの、この顔!」と芽衣子さんはびっくり。最初は17歳の彼女がタイムスリップしてきたのかと思ったが、解離性健忘というのが医者の診断。つまり、17歳から昨日までの22年間の記憶を喪失してしまったと。原因はわからないと医者も言う。

 こうなると、芽衣子さんが記憶を取り戻すまでの話かと思うところだが、そうはならないのが面白い。芽衣子の17歳の日々が始まるのである。街のあちこちにペイントするグラフィティライターのグループと知り合って過ごした青春の日々を、芽衣子は少しずつ思い出していくのだ。渋谷の街を舞台に、カラーギャングに追われて逃げた夜のこと、グラフィティライターの仲間たちと笑い転げた日のこと、そうしたことが徐々に蘇っていく。

 つまり、何が楽しくて生きているのかわからず、うざいなあと思っていた母にもそして父にも、輝いていた日々はあったのだ。これはそのことを潤平が発見するまでの物語だ。 (講談社 1600円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    JリーグMVP武藤嘉紀が浦和へ電撃移籍か…神戸退団を後押しする“2つの不満”と大きな野望

  2. 2

    広島ドラ2九里亜蓮 金髪「特攻隊長」を更生させた祖母の愛

  3. 3

    悠仁さまのお立場を危うくしかねない“筑波のプーチン”の存在…14年間も国立大トップに君臨

  4. 4

    田中将大ほぼ“セルフ戦力外”で独立リーグが虎視眈々!素行不良選手を受け入れる懐、NPB復帰の環境も万全

  5. 5

    悠仁さまの筑波大付属高での成績は? 進学塾に寄せられた情報を総合すると…

  1. 6

    FW大迫勇也を代表招集しないのか? 神戸J連覇に貢献も森保監督との間に漂う“微妙な空気”

  2. 7

    結局「光る君へ」の“勝利”で終わった? 新たな大河ファンを獲得した吉高由里子の評価はうなぎ上り

  3. 8

    飯島愛さん謎の孤独死から15年…関係者が明かした体調不良と、“暗躍した男性”の存在

  4. 9

    巨人がもしFA3連敗ならクビが飛ぶのは誰? 赤っ恥かかされた山口オーナーと阿部監督の怒りの矛先

  5. 10

    中日FA福谷浩司に“滑り止め特需”!ヤクルトはソフトB石川にフラれ即乗り換え、巨人とロッテも続くか