ブラックホールからマルチバースまで 最先端の宇宙本特集

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「宇宙はなぜブラックホールを造ったのか」谷口義明著

 日本が誇る小惑星探査機「はやぶさ2」プロジェクトや、ブラックホールの撮影成功など、宇宙を巡るニュースは暗い話題が多い世の中に希望をもたらしてくれる。それは未知の世界を解明していく人類の英知のすごさに感嘆するとともに、宇宙がその英知をもってしても分からないことが多い謎に満ちた存在であるからだろう。そこで今週は宇宙本を特集する。


 なにかと話題のブラックホールの解説本。

 銀河の中心には、超大質量ブラックホールが必ず存在することが分かってきたという。銀河の個数は約1兆個と推定されているので、超大質量ブラックホールの個数も約1兆個あることになる。太陽系を含む天の川銀河の中心にもあり、その質量は太陽の約400万倍。今まで観測された一番重い超大質量ブラックホールの質量は、なんと太陽の約100億倍もあるそうだ。観測的に示唆されたのは、1960年代に入ってからだが、18世紀には既に理論的にその存在の可能性が指摘されていたそうだ。

 そうした発見の歴史や基本構造などを解説しながら、ブラックホールがどうやって生まれ、育ち、どのような運命をたどるのか、そもそもなぜ銀河の中心にあるのかを解き明かす。

(光文社 920円+税)

「不自然な宇宙」須藤靖著

 マルチバースの概念を解説した宇宙論。

 マルチバースとは、宇宙は「我々の宇宙」ひとつだけではなく、多数である可能性を考え、それら数多くの宇宙の集合を示す単語。「宇宙の外の宇宙」の存在を考える最大の理由は、人類が観測できるこの宇宙の性質が物理法則だけから予測される性質と似ても似つかず、あまりにも不自然だからだという。この「宇宙」とその外にある(かもしれない)別の「宇宙」とは、互いに連続的につながるものではなく、質的に異なる階層であることを前提にしているという。ビッグバンも、マルチバースの空間のあらゆる場所で同時に起こった現象だと考えられるそうだ。なぜ宇宙に果てがないといえるのかなど、好奇心を魅了してやまない基礎的な謎を解説しながら、最先端の宇宙論を講義。

(講談社 1000円+税)

「地球一やさしい宇宙の話」吉田直紀著

「ニュートリノに質量があることを発見」とか、「重力波の検出に成功」など、宇宙に関するニュースに触れても、それのどんな点がすごいのか、文系人間にはさっぱり分からない。本書はそんな人にも分かるように宇宙に関する最先端の知見をこれ以上かみ砕けないというほどやさしく解説してくれるテキスト。

 例えば、人類にとって最も身近な月だが、実はどのようにして生まれたのか分かっていない。地球と一緒に生まれたという「兄弟説」など諸説あるが、現在最も正解に近いとされているのが、生まれたばかりの地球に小天体がぶつかり地球の一部と小天体の残骸が集まって生まれたとする「ジャイアントインパクト説」だという。

 月が生まれたばかりの頃、地球との距離は現在の20分の1~16分の1で、静止衛星よりも近かった。月は現在も少しずつ地球から遠ざかっており、このままどこかに行ってしまう可能性が高い。月は地球の自転を遅くする働きをしているので、そうなると地球の自転速度が速まり、1日は8時間程度になってしまうという。

 さらに、太陽や木星、ダイヤモンドの雨が降るという天王星や海王星などお馴染みの天体の話から、宇宙が無から生まれたといわれるが、その無とはどういうことかに始まる宇宙創世記、そして、宇宙は重力のおかげで成り立っているが、その重力の正体は、実は重力子という重さのない素粒子であることや、宇宙のにおい、宇宙の約95%を占めているダークマターとダークエネルギーについてなど。

 興味深いトピックで読者の知的好奇心を刺激しながら、宇宙への理解を深めてくれる超おすすめ本だ。

(小学館 1300円+税)

「忙しすぎる人のための宇宙講座」ニール・ドグラース・タイソン著 渡部潤一監修 田沢恭子訳

 著名な天体物理学者によるベストセラー。

 ビッグバンと呼ばれる宇宙誕生の瞬間。ゼロ秒後から10のマイナス43乗秒(1000万分の1兆分の1兆分の1兆分の1秒)までという途方もないほどごく短い初期宇宙「プランク時代」。実はこのときに宇宙が示した振る舞いを説明できる既知の物理法則はないそうだが、この時代の終わりまでに放射性崩壊を制御する弱い力、原子核をひとまとめにする強い力、分子をひとまとめにする電磁力、そして大きな物質をまとめ上げる重力という自然界に存在する4種類のすべての力がそろった。

 そうした宇宙の始まりから説き起こし、宇宙全般の理解に必要な物理法則から、各元素がどのように生まれ、どんな役割をしているかまでを解説。宇宙の基礎知識が身につく格好の入門書。

(早川書房 1500円+税)

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