「京都詩人傳 一九六〇年代詩漂流記」正津勉著

公開日: 更新日:

 1964年4月、同志社大学に入学した著者が出会ったのが、5歳上で2学年上の清水昶。詩人、清水哲男の弟だ。昶の影響で、谷川雁を入り口に現代詩に触れる。

 時あたかも吉増剛造、天沢退二郎、鈴木志郎康らの「60年代詩人」たちが群雄割拠していた。しかしそれはあくまでも「首都のニュース」で、著者が暮らしていた京都の詩の世界はそうした動きとは違う独特の詩的交友圏――著者が名付けるところの「閉鎖京都系」があった。本書は著者と交友のあった詩人たちを取り上げ、60年代の閉鎖京都系の詩的世界を概観したもの。

 登場するのは、天野忠、大野新、角田清文、清水哲男、清水昶の5人。彼らをつなぐ京都の詩の要衝が街の小さな印刷屋、双林プリントだ。主人の山前實治は戦前に天野忠らと同人雑誌を発行するなど京都詩壇のはじまりに位置する詩人で、関西の詩人の作品を数多く刊行した。その双林プリントを中核に、5人の詩人の履歴を追いながら、閉鎖京都系独自の詩が生まれる経緯が説かれていく。

 清水哲男を除く4人が鬼籍に入っている。彼らへの弔歌であると同時に、著者自身の60年代への鎮魂歌にも思える。

(アーツアンドクラフツ2000円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    中学受験で慶応普通部に進んだ石坂浩二も圧倒された「幼稚舎」組の生意気さ 大学時代に石井ふく子の目にとまる

  2. 2

    横浜とのFA交渉で引っ掛かった森祇晶監督の冷淡 落合博満さんは非通知着信で「探り」を入れてきた

  3. 3

    出家否定も 新木優子「幸福の科学」カミングアウトの波紋

  4. 4

    国宝級イケメンの松村北斗は転校した堀越高校から亜細亜大に進学 仕事と学業の両立をしっかり

  5. 5

    放送100年特集ドラマ「火星の女王」(NHK)はNetflixの向こうを貼るとんでもないSFドラマ

  1. 6

    日本人選手で初めてサングラスとリストバンドを着用した、陰のファッションリーダー

  2. 7

    【京都府立鴨沂高校】という沢田研二の出身校の歩き方

  3. 8

    「核兵器保有すべき」放言の高市首相側近は何者なのか? 官房長官は火消しに躍起も辞任は不可避

  4. 9

    複雑なコードとリズムを世に広めた編曲 松任谷正隆の偉業

  5. 10

    中日からFA宣言した交渉の一部始終 2001年オフは「残留」と「移籍」で揺れる毎日を過ごした