「溺れるものと救われるもの」プリーモ・レーヴィ著 竹山博英訳
アウシュビッツ強制収容所の生き残りの著者が、40年の歳月を経て改めてアウシュビッツとは何だったのかを自らと世に問う思索の書。
歳月による記憶の風化を恐れる氏は、残虐な行為を行った抑圧者たちが不都合な記憶を歪曲し、罪の意識を軽くしていると指摘。同じように犠牲者や遺族にも記憶の風化や歪曲が生じているという。
一方で、収容所内は何の希望もない多くの囚人とともに、ナチに協力することで生き残りを求めた囚人が存在する複雑な社会で、生き残ったのはそんな灰色の領域の囚人が圧倒的に多かったと明かす。彼らを糾弾するのではなく、そうした状況を強いた者を告発し、残虐な行為を行った者も我々と同じ人間だったことを自戒を込めて説く。
(朝日新聞出版 840円+税)