著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「言の葉は、残りて」佐藤雫著

公開日: 更新日:

 鎌倉幕府3代将軍、源実朝のもとに、摂関家の娘・信子が嫁いでくるところから、この物語は始まっていく。そのとき実朝は13歳、信子は12歳。つまり、幼い少年と少女である。したがって、のどかで、優しく、ほのぼのとした子供同士の出会いから始まる物語といっていい。

 そのきわめて親しい幼馴染みのような関係は、本来なら2人だけの問題であるはずなのに、それが許されないのは、実朝が「武家の頭領」であるからだ。さまざまな人の思惑、立場、事情というものがある。裏切りと陰謀がある。この2人はいや応なく、そういう現実に巻き込まれるのだ。

 実朝の乳母、阿波局がなぜ冷たいのか。頼家(2代将軍)の息子で、実朝の甥である善哉に何があったのか。それぞれのドラマを著者は丁寧に描いていく。その人物造形が鮮やかなので、どんどん引き込まれていく。

 第32回の小説すばる新人賞の受賞作で、つまりは本書がデビュー作ということだが、とても新人の作品とは思えないほど緊迫感あふれる物語で、読み始めたらやめられなくなる。複雑な政争が緊密に描かれるので、余計に冒頭の、幼い2人の出会いが印象に残る。あるいは幼い政子(実朝の母)が、弟の義時を誘って遠出する挿話が胸に残る。「ねえ、四郎(義時の幼名)。蛭ケ小島に行かない?」と政子が言う風景が、読み終えても残り続ける。それもこの小説の力だ。 (集英社 1650円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • BOOKSのアクセスランキング

  1. 1

    冷房を止めて読書で体を冷やそう 文庫で読むホラー小説特集(3)「ホラーの扉」株式会社闇編著 雨穴、五味弘文ほか著

  2. 2

    「星を編む」凪良ゆう著│本屋大賞受賞作「汝、星のごとく」で語りきれなかった3つの物語

  3. 3

    盛林堂書房(西荻窪)「面陳列をしないのは、1冊でも多く棚に差したいから」

  4. 4

    「沖縄を語りつぐ」川平朝清、ジョン・カビラ著│川平朝清氏の半生と沖縄への思いを長男ジョン・カビラ氏がインタビュー

  5. 5

    「なるほどフェルメール」千足伸行監修│43年の生涯で残した作品は35点前後

  1. 6

    柳原滋雄(フリージャーナリスト)なぜ中道改革連合が失敗したかに関心

  2. 7

    「米国や英国、中国の国歌は敵と戦うことを前提とした歌でいわば民衆の歌でもあったんです」──「国家と反国歌」小島岳彦氏

  3. 8

    冷房を止めて読書で体を冷やそう 文庫で読むホラー小説特集(1)「赫き女王」北里紗月著

  4. 9

    身近なスズメのかわいさと魅力を再発見「せかいのスズメ」小宮輝之監修、中野さとるほか写真、ポンプラボ編

  5. 10

    冷房を止めて読書で体を冷やそう 文庫で読むホラー小説特集(2)「この恋が叶ったら、きっと死んでしまう」神永学ほか著

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「24時間テレビ」SixTONES起用もマラソン募金額46%減で“旧ジャニーズ一極集中”は終焉へ

  2. 2

    バナナマン日村が簡単に復帰できそうにない「もう1つの理由」…レギュラー11本抱える人気者のジレンマ

  3. 3

    NHK出演にSNSでは抗議の声も…彬子女王と伊藤穰一氏をつなぐ「裏千家」とブータン王室の深い関係

  4. 4

    (2)「おニャン子クラブ」の二の舞いを回避した「順位付け」という競争原理はグループを飛躍的に活性化させた

  5. 5

    「タンス預金2000万円」相続税はどうやってバレる? 税務署が追う“亡き親の出金”

  1. 6

    一発で免許停止も…9月から法定速度改正「時速30キロ」生活道路の見分け方

  2. 7

    水前寺清子(1)作詞家・星野哲郎への恩と愛称「チータ」誕生の理由

  3. 8

    自民党内に内閣改造の“タマ”がいない…女性閣僚「目玉不在」に高市首相が“苦悶”

  4. 9

    24時間マラソン完走後にSNSで“陰謀論”が拡散 星野真里に上がった「車移動説」のお粗末

  5. 10

    止まらない「人手不足倒産」…8月は過去最多を記録、もはや“ブラック企業”は成り立たない