著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「夕陽の道を北へゆけ」ジャニーン・カミンズ著 宇佐川晶子訳

公開日: 更新日:

 緊迫感あふれる物語だ。メキシコからアメリカをめざす母子の息詰まるような逃避行を描くロードノベルだが、読み始めるとやめられなくなる。

 著者の覚え書きによると、2017年、メキシコは世界でもっともジャーナリストの死亡率が高い国だったという。しかもその大半が未解決のようだ。本書の中でリディアの夫が麻薬密売組織の批判記事を書いたために殺されたのも(しかも一族皆殺しだ)、そういう現実が背景にある。

 リディアと8歳の息子ルカはそのとき、たまたまバスルームにいたので助かったのだが、この母子の苦難はここから始まっていく。リディアは息子を連れてカルテルの力の及ばないアメリカに行くことを決意するが、カルテルの力はメキシコ全土に及んでいて、密告者はいたるところにいるのだ。その網をかいくぐり、母子は無事にアメリカにたどりつけるのか、という物語だが、貨物列車に飛び乗ったり、砂漠を徒歩で横断したり、その苦難の旅は波乱に富んでいるから目が離せない。

 一緒に逃げるのはさまざまな事情をかかえた人々で、それらのドラマと秀逸な人物造形が彼らの旅に奥行きをもたらしていることは書いておかなければならない。さらに「移民は褐色の集団ではなく、独自の背景を持つ個人である」という著者の考えがこの背景にあることも書いておく。手に汗握る物語であるけれど、考えさせられる小説でもあるのだ。

(早川書房 3100円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    2度目の離婚に踏み切った吉川ひなの壮絶半生…最初の夫IZAMとは"ままごと婚"と揶揄され「宗教2世」も告白

  2. 2

    巨人桑田二軍監督の“排除”に「原前監督が動いた説」浮上…事実上のクビは必然だった

  3. 3

    嶋基宏は一時期ノイローゼ状態になっていた...心ここにあらずで、魂が抜けた状態に

  4. 4

    伊藤健太郎とキンプリ永瀬廉で明暗クッキリ…「熱愛報道」出口夏希の足を引っ張りかねない“イメージ格差”

  5. 5

    なぜ「愛子天皇」ではダメなのか? 美智子さまが心情を吐露する出版物を準備中…と政界で話題

  1. 6

    嵐が去る前に思い出す…あの頃の「松本潤」と「大野智」

  2. 7

    視聴率の取れない枠にハマった和久田麻由子アナの不運 与えられているのは「誰でもできる役割」のみ

  3. 8

    不慮の事故で四肢が完全麻痺…BARBEE BOYSのKONTAが日刊ゲンダイに語っていた歌、家族、うつ病との闘病

  4. 9

    居酒屋倒産が過去最多ペース 客離れの背景にある「飲み放題5000円」の壁

  5. 10

    巨人“育成の星”のアクシデントに阿部監督は顔面硬直、原辰徳氏は絶句…桑田真澄氏の懸念が現実に