著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「いいからしばらく黙ってろ!」竹宮ゆゆこ著

公開日: 更新日:

 最初に書いておくが、たいした話ではない。バーバリアン・スキルという弱小の劇団に飛び込んで、その運営に携わるヒロイン(彼女は大道具の才能まであるから重宝される)の疾風怒涛の活躍を描く長編だが、どうやったら公演までたどりつけるか、というだけの物語であるから、たいした話ではない。たとえ資金が集められずに公演できなかったとしても、世界がひっくり返るわけではないのだ。ところが読み始めるとやめられなくなる。

 なんなんだこれは!

 略歴をみると、著者はライトノベルで活躍していた人で、5~6年前から新潮文庫nexなどで新作を発表しているようだが、本書のクセになる文体がライトノベル時代から変わらないこの著者の特徴なのか、それとも大人向けの一般文芸に転じてからの特徴なのかが判断できない。たいした話でもないのにやめられないのは、文体だけでなく、物語に漲る熱気がただごとではないからだ。それがなによりも素晴らしい。粗削りだが、迫力満点の、元気が出てくる異色の青春小説だ。

 冒頭に出てくる挿話についても少しだけ書いておく。幼いヒロインが、言うことを聞かない双子の弟妹と、わがままな双子の兄姉に挟まれて苦労する挿話で、このあたりのリズムがややぎくしゃくしているので読みにくいことは否めないが、なんだかこの挿話の向こうにこの著者の才能がひそんでいるような気がしてならない。要注目だ。

 (KADOKAWA 1700円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    注目集まる「キャスター」後の永野芽郁の俳優人生…テレビ局が起用しづらい「業界内の暗黙ルール」とは

  4. 4

    柳田悠岐の戦線復帰に球団内外で「微妙な温度差」…ソフトBは決して歓迎ムードだけじゃない

  5. 5

    女子学院から東大文Ⅲに進んだ膳場貴子が“進振り”で医学部を目指したナゾ

  1. 6

    大阪万博“唯一の目玉”水上ショーもはや再開不能…レジオネラ菌が指針値の20倍から約50倍に!

  2. 7

    ローラの「田植え」素足だけでないもう1つのトバッチリ…“パソナ案件”ジローラモと同列扱いに

  3. 8

    ヤクルト高津監督「途中休養Xデー」が話題だが…球団関係者から聞こえる「意外な展望」

  4. 9

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  5. 10

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?