著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

公開日: 更新日:

 須賀庸一は、酒乱で女好きで乱暴者で、「最後の無頼派」と呼ばれる作家だった。しかし文壇のみならず、世間が騒然としたのは、庸一の妻が海外の殺鼠剤を溶かした麦茶を飲んでしまう事件(遺書が出てきたことで警察は自殺と判断)のあとに、庸一が「深海の巣」という短編を発表したからである。その内容は、作家の「菅洋市」が自殺に見せかけ、海外の殺鼠剤を飲ませて妻を殺す話だったのだ。庸一にはアリバイがあったので逮捕されなかったが、世間で叩かれ、娘の明日美も父親との縁を切る、というところまでがプロローグ。いや、その須賀庸一が膵臓がんで死ぬと、明日美のもとに、宅配便が届くというところまでがプロローグだ。送り主は父の須賀庸一だ。宅配便の中身は、手書きの文字で埋めつくされた原稿用紙で、いちばん上の用紙には「文身」と書かれている。

 それは、作家・須賀庸一がどうやって誕生したのかという内幕話だった。「遺稿につづられていたのは、自殺したはずの弟との奇妙な共謀関係だった」と帯にあるのでここにも書いてしまうが、兄弟で合作していたというのである。何重にも入れ子構造になっている小説だが、兄弟の奇妙な関係がとてもスリリングだ。作者は2018年に「永遠についての証明」で野性時代フロンティア文学賞を受賞して、本書がまだ3作目。これからもっと大きくなっていく作家だと思うのでいまのうちからお読みになることをすすめたい。

(祥伝社 1600円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    2度目の離婚に踏み切った吉川ひなの壮絶半生…最初の夫IZAMとは"ままごと婚"と揶揄され「宗教2世」も告白

  2. 2

    巨人桑田二軍監督の“排除”に「原前監督が動いた説」浮上…事実上のクビは必然だった

  3. 3

    嶋基宏は一時期ノイローゼ状態になっていた...心ここにあらずで、魂が抜けた状態に

  4. 4

    伊藤健太郎とキンプリ永瀬廉で明暗クッキリ…「熱愛報道」出口夏希の足を引っ張りかねない“イメージ格差”

  5. 5

    なぜ「愛子天皇」ではダメなのか? 美智子さまが心情を吐露する出版物を準備中…と政界で話題

  1. 6

    嵐が去る前に思い出す…あの頃の「松本潤」と「大野智」

  2. 7

    視聴率の取れない枠にハマった和久田麻由子アナの不運 与えられているのは「誰でもできる役割」のみ

  3. 8

    不慮の事故で四肢が完全麻痺…BARBEE BOYSのKONTAが日刊ゲンダイに語っていた歌、家族、うつ病との闘病

  4. 9

    居酒屋倒産が過去最多ペース 客離れの背景にある「飲み放題5000円」の壁

  5. 10

    巨人“育成の星”のアクシデントに阿部監督は顔面硬直、原辰徳氏は絶句…桑田真澄氏の懸念が現実に