著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「探偵は絵にならない」森晶麿著

公開日: 更新日:

 濱松ハードボイルドだ。この作品が誕生したのは、映画「探偵はBARにいる」のノベライズを担当したことがきっかけだった、と著者はあとがきに書いている。2011年に「黒猫の遊歩あるいは美学講義」で第1回アガサ・クリスティー賞を受賞した森晶麿は、その受賞作をはじめとする「黒猫シリーズ」でお馴染みだが、以前からハードボイルドに興味を持っていたらしい。で、故郷の町を舞台にした本書が生まれることになったのだが、第3話「アムリタ夫人」をとりあえずは読まれたい。

 主人公の濱松蒼は、売れない画家で、故郷の町に帰ると、息子の肖像画を描いてくれと知り合いから依頼される。小学生の息子が部屋から出てこないというのだ。蒼の絵を見せたら、この人ならいいと許可が出たという。

 というわけで、引きこもりの小学生を訪ねていくのだが、はたして蒼は彼の閉ざされた心を開くことは出来るだろうか――という話で、温かなものがこみ上げてくるラストがうまい。

 家を出た同棲相手のフォンを追いかけて、濱松蒼は故郷の町に帰るのだが、友人の蘭都(やくざの父親に反抗して家出中)や、その蘭都をひそかにガードするバロンなど、個性豊かな脇役たちが興趣を盛り上げている。まだ文章の一部に粗さが残ってはいるけれど、このまま書き続ければそれもこなれていくに違いない。気軽に読めるハードボイルドとして楽しみたい。

(早川書房 760円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    DeNA三浦監督まさかの退団劇の舞台裏 フロントの現場介入にウンザリ、「よく5年も我慢」の声

  2. 2

    日本ハムが新庄監督の権限剥奪 フロント主導に逆戻りで有原航平・西川遥輝の獲得にも沈黙中

  3. 3

    佳子さま31歳の誕生日直前に飛び出した“婚約報道” 結婚を巡る「葛藤」の中身

  4. 4

    国分太一「人権救済申し立て」“却下”でテレビ復帰は絶望的に…「松岡のちゃんねる」に一縷の望みも険しすぎる今後

  5. 5

    白鵬のつくづくトホホな短慮ぶり 相撲協会は本気で「宮城野部屋再興」を考えていた 

  1. 6

    藤川阪神の日本シリーズ敗戦の内幕 「こんなチームでは勝てませんよ!」会議室で怒声が響いた

  2. 7

    未成年の少女を複数回自宅に呼び出していたSKY-HIの「年内活動辞退」に疑問噴出…「1週間もない」と関係者批判

  3. 8

    清原和博 夜の「ご乱行」3連発(00年~05年)…キャンプ中の夜遊び、女遊び、無断外泊は恒例行事だった

  4. 9

    「嵐」紅白出演ナシ&“解散ライブに暗雲”でもビクともしない「余裕のメンバー」はこの人だ!

  5. 10

    武田鉄矢「水戸黄門」が7年ぶり2時間SPで復活! 一行が目指すは輪島・金沢