著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「雪と心臓」生馬直樹著

公開日: 更新日:

 近年、もっとも魅力的なヒロインである。本書に登場する帆名だ。

 勉強も運動も群を抜いているが、遊びの面でも鮮やかだから、これでは勇帆の立場がない。本書の語り手である勇帆は次のように述懐する。

「これがまだ年の離れたきょうだいなら我慢できただろう。ぼくのお姉ちゃんはちょっと頭がおかしいけど、なんでもできて、すごく優秀な人なんだよ、と。自慢にさえなったかもしれない」

 問題は、帆名が年の離れたお姉ちゃんではなく、双子であることだ。だから、比べられると立場がない。中学生になったとき、勇帆の同級生は帆名を評してこう言った。

「あんなに乱暴で、勝手で、自我まる出しで生きているのに、不思議とまったく孤立していないんだ」

 高校生になったときの挿話が鮮やかだ。勇帆が不良のリーダーに殴られると、金属バットを持って訪ねていき、血だらけになって帰宅した彼女は次のようにうそぶく。

「かわりにあいつのバイク、ぶっ壊してやったから、こっちの勝ちでいいんじゃないの」

 大半が小中高の時代を描いていくので、少年少女小説の趣があるが、プロローグとエピローグにちょっと仕掛けのあるミステリーでもあるので、これ以上の詳述は避けたい。こういう女性はどんな大人になるんだろう、とどんどん妄想が広がっていくのである。

(集英社 1500円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人・戸郷翔征は「新妻」が不振の原因だった? FA加入の甲斐拓也と“別れて”から2連勝

  2. 2

    萩生田光一氏「石破おろし」がトーンダウン…自民裏金事件めぐり、特捜部が政策秘書を略式起訴へ

  3. 3

    参政党は言行一致の政党だった!「多夫多妻」の提唱通り、党内は不倫やら略奪婚が花盛り

  4. 4

    【夏の甲子園】初戦で「勝つ高校」「負ける高校」完全予想…今夏は好カード目白押しの大混戦

  5. 5

    早場米シーズン到来、例年にない高値…では今年のコメ相場はどうなる?

  1. 6

    落合博満さんと初キャンプでまさかの相部屋、すこぶる憂鬱だった1カ月間の一部始終

  2. 7

    打者にとって藤浪晋太郎ほど嫌な投手はいない。本人はもちろん、ベンチがそう割り切れるか

  3. 8

    伊東市長「続投表明」で大炎上!そして学歴詐称疑惑は「カイロ大卒」の小池都知事にも“飛び火”

  4. 9

    “芸能界のドン”逝去で変わりゆく業界勢力図…取り巻きや御用マスコミが消えた後に現れるモノ

  5. 10

    自民両院議員懇談会で「石破おろし」が不発だったこれだけの理由…目立った空席、“主導側”は発言せず欠席者も