あなたも体験するかも 怪奇な物語特集

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「霊視(みえ)るお土産屋さん2」平田ノブハル著

 なぜか人には見えないものが見え、聞こえないものが聞こえる人がいる。「見えない」ものとは、もしかして「見てはいけない」ものなのか? それとも……。異界へと誘う最新文庫本をご紹介。



 俵燈子は琵琶湖に浮かぶ竹生島の観光土産店「鳰の海」で、社長の目建甲斐と一緒に働いている。隣にカフェがオープンし、店長の賀茂孝徳が挨拶に来た。燈子の背中越しに「燈子ちゃんのお父さんとお母さんも、よろしく頼むで」と挨拶したのを見ると、甲斐と同じく霊視ができるらしい。ある日、甲斐の父の友人の陶芸家から、悪霊退治の依頼が来た。断るつもりだったのに、陰陽師の末裔だという賀茂が「その依頼、オレが受けたる」と引き受けてしまった。陶芸家の東原瑞風の家には信楽焼の狸の置物が数体あった。話をしているときに、突然それらの狸がふわりと宙に浮き、びゅんびゅん飛び回り始めた。中には腹鼓を叩いているのもいる。そのうえ、四方八方から子どもの声が聞こえてくる。(「笑う狸の置き土産」)

 土産物屋のスタッフと霊視のできるイケメン青年が怪奇現象を解決する人気書き下ろしシリーズ。

(光文社 660円+税)

「ドイツ怪談集」種村季弘編

 医学生のヘルベルト・オスターマンは、恋人のベッティーネが死んでから人間嫌いになった。謝肉祭が近づいたとき、インターンの組合結成を祝って宴会を開くことに。ゲーテの詩「死の踊り」が朗読された後、舞台に墓地のセットがしつらえられ、幽霊の踊りが繰り広げられる。オスターマンはこの踊りに恐怖を感じたが、不意に彼らの身のこなしに何か親しい感じのするものがあるのに気づく。

 踊りが終わり、髑髏の仮面を着けたまま、ひとりの踊り手がオスターマンに声をかけた。「わたしが誰かお当てくださいな」。オスターマンは、その動作から彼女が輪舞の中で自分の心を引いた踊り子であることを確認する。2人で霧の中を歩いて、かつて暮らしていた部屋に着いたとき、振り向くと、そこにベッティーネがいた。(K・H・シュトローブル著「死の舞踏」)

 ほかにホフマンの「廃屋」など16編収載。

(河出書房新社 1000円+税)

「鯖猫長屋 ふしぎ草紙(八)」田牧大和著

 安くてうまいと評判の饅頭屋「見晴屋」を訪ねようとした太市の肩に、赤い目をした白い鴉が止まった。そのとき、首筋に刃物が当てられ、「お前ぇが『白鴉』だな」と男が囁いた。男は太市に声をかけようとした見晴屋の主、お智も一緒に、店に連れ込んだ。

 お智が実家に帰ることになり、店を閉めることになったと客に説明したと聞いて、長屋の住人は不審に思う。縞三毛猫のサバが「にゃおうん」と鳴いて、その目がきらりと光った。――嘘だな。だが、なぜかサバは付近に出没する白い鴉に怯えている。太市が世話をしている「二キのご隠居」を、太市とよく似た男子が訪ねてきた。肩に白い鴉を乗せている。「白鴉」と名乗った男子は、自分は千里眼なので、人の心が読めると言う。

 幽霊が見える猫のサバが長屋に現れた妖を退治する書き下ろし大江戸ミステリー。

(PHP研究所 760円+税)

「浮雲心霊奇譚」神永学著

 得意先に反物を届けにいった帰りに雨に遭った八十八が、寺の軒下で雨宿りしていると、足元に白い蛇が這っている。八十八がよけると蛇は縁の下に潜っていった。背後から美しい女に声をかけられて本堂に入ると、女は、この寺の住職だった宗玄を捜してほしいと八十八に頼んだ。そのお礼に、と帯を解いて裸身をさらしたので、まだ女を知らない八十八は逃げ出す。

 八十八は憑きもの落としをなりわいにしている浮雲に相談しようとするが、浮雲に「何を連れている?」と言われ、足元の白蛇に気がつく。白蛇にはあの美女の幽霊が取り憑いていると浮雲は言い、八十八を連れて本堂に赴く。通りかかった男に話を聞くと、寺には女がいたという。もしかしたら、その女は宗玄に殺されたのではないか。(「白蛇の理」)

 憑きもの落としの浮雲が活躍する時代小説。

(集英社 620円+税)

「禁じられた楽園」恩田陸著

 建築学部の学生、平口捷は、烏山彩城展を見にいった美術館で、肌がぴりぴりするような緊張感を覚えた。「こういうものに興味があるのかい?」と声をかけたのは烏山彩城の甥で、同級生の烏山響一だった。カリスマ性を持つ世界的なアーティストである。響一が自分を知っていることに捷は驚いたが、大学の階段式の大教室で捷が自分を呼ぶのが聞こえたと響一に言われて戸惑う。

 ある日、捷に知らない会社からA4サイズの封筒が届く。中には「CURTAIN」とタイトルがついたCDが入っていた。これはあの男が作ったものだと直感した。そのCDを開いてみると、森の中を走る男の子の画像が現れた。だが、その両手は手首から先がない。そして数人の子どもが現れ、「遊ぼうよ」と言って捷を森の中に引きずり込もうとする。見る者を絵や映像の中に引きずり込む天才アーティストを描くホラー小説。

(徳間書店 850円+税)

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