中澤日菜子(作家)

公開日: 更新日:

11月×日 長女が猫を拾ってきた。なんでも公園に友だちといたところ、派手な車が来て、若いカップルがぽいと捨てて行ったそうだ。なんと無責任な。とはいえ我が家はペット禁止のマンション、飼ってやることはできない。仕方ないので里親が見つかるまで預かることにする。

 そんなこととはつゆ知らず、その日わたしが読んでいたのは原田ひ香著「一橋桐子(76)の犯罪日記」(徳間書店 1650円+税)。独り身で、清掃のバイトをしながらつつましく暮らす老女が、みずからの先行きを案じて「犯罪者になって刑務所で暮らそう」と思い立つお話。不景気、解雇、孤独――重たいテーマではあるが、桐子のおっとりしたキャラクターに助けられて、温かな気持ちで読了。実際このように思う高齢者は多いのかもしれないなと思う。

11月×日 猫の里親を探すために方々に声をかけるが、なかなか色よい返事はもらえない。困った。コロナ禍で海外に行けない昨今、せめて本の世界でだけは……と思い、村上春樹著「ラオスにいったい何があるというんですか?」(文藝春秋 870円+税)を手に取る。

 ボストン、フィンランド、ラオス、イタリア、その他各地を村上春樹が訪ねた紀行文。読んでいると、その土地土地の匂いが香り立って来る。ああ、早く旅に出たい。コロナの馬鹿。1日も早い収束を願うばかりだ。

11月×日 打ち合わせで市ヶ谷へ。会社員時代、10年間通った街だが、来るたびに店が入れ替わっている。20年前からある店は片手で数えられるほど。行き帰りの電車のお供は彩瀬まる著「くちなし」(文藝春秋 620円+税)。恋愛がテーマの幻想的な短編集。彩瀬まるは不思議な作家だ。日常からふいっと異世界に連れ出してくれる。その「ずれ」がなんとも心地よい。

11月×日 いまだに保護した猫の行き先が決まらない。どうか早く決まっておくれ。でないと落ち着いて本も読めやしないよ……。

【連載】週間読書日記

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    安青錦の大関昇進めぐり「賛成」「反対」真っ二つ…苦手の横綱・大の里に善戦したと思いきや

  2. 2

    横綱・大の里まさかの千秋楽負傷休場に角界から非難の嵐…八角理事長は「遺憾」、舞の海氏も「私なら出場」

  3. 3

    2026年大学入試はどうなる? 注目は公立の長野大と福井県立大、私立は立教大学環境学部

  4. 4

    東山紀之「芸能界復帰」へカウントダウン着々…近影ショットを布石に、スマイル社社長業務の終了発表か

  5. 5

    「総理に失礼だ!」と小池都知事が大炎上…高市首相“45度お辞儀”に“5度の会釈”で対応したワケ

  1. 6

    大関取り安青錦の出世街道に立ちはだかる「体重のカベ」…幕内の平均体重より-10kg

  2. 7

    日中対立激化招いた高市外交に漂う“食傷ムード”…海外の有力メディアから懸念や皮肉が続々と

  3. 8

    義ノ富士が速攻相撲で横綱・大の里から金星! 学生相撲時代のライバルに送った痛烈メッセージ

  4. 9

    同じマンションで生活を…海老蔵&米倉涼子に復縁の可能性

  5. 10

    独立に成功した「新しい地図」3人を待つ課題…“事務所を出ない”理由を明かした木村拓哉の選択