石井妙子(作家)

公開日: 更新日:

11月×日 コロナに始まり、コロナに終わりそうな2020年。八百屋の店先には今年もマツタケが並んだが、舌鼓を打てた人はどれだけいたのだろう。街を歩けば、閉店の張り紙が目につく。コロナ禍は修行を積んだ板前が包丁を握る、小さな名店を直撃したようで、廃業した店も少なくはない。ネットに疎い包丁一筋の店主たちからは、「ゴーツーって言われたって、よくわかんないよ。手続きが面倒でやってられないよ」との声も聞かれる。

 菅新政権は「コロナ禍での経済重視」を口にする。だが、どんなビジョンを描いているのか。まだはっきりと見えてはこない。そうした中で、再び「菅政権の経済ブレーン」として注目を集めているのが、竹中平蔵氏である。小泉政権で構造改革を推し進めた経済学者で、政商。常に政権近くに身を置き、政治家をたくみに操っては、経済の仕組みを変えさせ、自身のふところを温めてきた。結果、今の日本の、この格差社会がある。

 平成時代、歴代総理よりも、国家に影響を与えた人物。いったい彼は何者で、どのような人物であるのか。その問いに応えてくれるのが本書、佐々木実著「竹中平蔵 市場と権力 『改革』に憑かれた経済学者の肖像」(講談社 900円+税)である。2013年に単行本として出版され高く評価されたが今年9月、手に取りやすい文庫本になった。

 本書によれば竹中氏は和歌山県出身。履物屋を営む父親が下駄の鼻緒をすげかえる背中を見て育ち、激しい野心の持ち主となった。著名人に接近して人脈を築き、共同研究者の名前を消して自分の単著として論文を発表。他人の金で世渡りをし、税金はできるだけ払おうとしない――。

 数々のエピソードに唖然とさせられつつも、読み進めるに従い、その人生には悲哀も感じた。政治家は「経済が大事」と口にする。だが、永田町の権力闘争に忙しい彼らは、自分で理解を極めようとはせず、すり寄ってくる“専門家”を信用し、丸投げてしまう。そこに生まれる危険性も本書は告発している。

【連載】週間読書日記

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  2. 2

    ドジャース「佐々木朗希放出」に現実味…2年連続サイ・ヤング賞左腕スクーバル獲得のトレード要員へ

  3. 3

    ドジャース大谷翔平32歳「今がピーク説」の不穏…来季以降は一気に下降線をたどる可能性も

  4. 4

    ギャラから解析する“TOKIOの絆” 国分太一コンプラ違反疑惑に松岡昌宏も城島茂も「共闘」

  5. 5

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  1. 6

    国分太一問題で日テレの「城島&松岡に謝罪」に関係者が抱いた“違和感”

  2. 7

    今度は横山裕が全治2カ月のケガ…元TOKIO松岡昌宏も指摘「テレビ局こそコンプラ違反の温床」という闇の深度

  3. 8

    国分太一“追放”騒動…日テレが一転して平謝りのウラを読む

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    大谷翔平のWBC二刀流実現は絶望的か…侍J首脳陣が恐れる過保護なドジャースからの「ホットライン」