殺された「公共」

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「この国の『公共』はどこへゆく」寺脇研、前川喜平、吉原毅著

 自民一極の長期政権下、しかも新自由主義の下で「公共」が殺されている。



 80年代に「ゆとり教育」の旗振り役をつとめ、日本をダメにしたと保守論壇から非難された元文部官僚。安倍政権と対立し、策謀による言いがかりで更迭された元文科事務次官。この異色の元官僚2人とともに、信用金庫理事長から「原発ゼロ」の推進役になった財界人が討論する日本の「公共」への警鐘。

 抽象論ではなく、ただの理想論やキレイ事でもない。前川元次官は出会い系バー通いと非難されたが、歌舞伎町で出会った女性は母子家庭育ちで母親が精神を病み、成績優秀にもかかわらず進学をあきらめて風俗に入った。通信制高校に登録した別の女性の話から株式会社立の学校制度に大きな抜け穴があることもわかったという。

「教育」を業務とする文科省の所管に「サッカーくじ」があることや「たばこ税」を教育財源にする案の不毛さを先輩が後輩に鋭く問いただすなど、テレビでは伝えられない熟論のよさを生かした活字本ならではの鼎談集。「僕も役所にいる間、ずっと市場主義に攻められてきたと思っています」(前川)という述懐が重い。官僚の志が低下しているいま、読まれてほしい本。

(花伝社 1700円+税)

「新自由主義にゆがむ公共政策」新藤宗幸著

 小泉政権に始まり、歴代の自民党内閣で継承されてきた新自由主義。「規制緩和」は一見、民間活力を元気づけると見えて実は公的機関の力をそぎ、権威をおとしめ、公共サービスの質を落としてきた。

 たとえば2018年4月、日本では主要農作物種子法が全面廃止になることが決まった。食糧増産に加え将来を見越した優良品種の開発をめざして戦後の日本農政を支えてきたこの法律。それがアメリカをはじめとするグローバル企業の利権に圧殺されたのは、トランプに忖度した安倍政権の「政治主導」によるもの。

 行政学者の著者は種子法の意義を承知しているはずの農水省が無抵抗だったのはなぜだと鋭く問う。

 新自由主義は“市場こそ賢者”の思想。しかし実態は新自由主義の名に隠れ、政権主導で官僚制と公共政策を劣化させたのだ。

(朝日新聞出版 1500円+税)

「政治と複数性」齋藤純一著

 人それぞれの価値観を重視する現代。それが利己主義でなく、共通の場に対する「複数の価値」となるにはどうすればいいのか。政治思想史が専門の著者は問う。

「複数の価値」というと「虐げられた人々の声」に耳を傾けようといった同情や共感の姿勢が尊ばれる。しかし著者はH・アーレントにならって、この態度は他者を一方的に“配慮されるべき犠牲者”にするという。彼らの苦難を「無意識のうちに賛美する」態度は、相手を政治的に無力な存在と見ることで「自らの権力を購う態度」なのだと。

 過去の世代が起こした戦争犯罪やそれに対する政治的責任を、なぜ後の世代が負う必要があるのか。西洋では権力の抑圧に対する抵抗の拠点ともなった中間層が、なぜ日本ではそうならなかったのか。民主的な公共性に向けてさまざまな問いに迫る論集。

(岩波書店 1620円+税)

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