上野誠(國學院大學文学部教授)

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4月×日 29年勤めた奈良大学から、國學院大學に移籍してはじめての授業。私の第一声は、俺も文学の楽しさを語るから、君たちも授業を楽しみなさい、と語った。だから、私は、時に、柿本人麻呂になるぞ、と言い放つ。時空を超えた語り手にならねば……。

4月×日 書評の掲載誌が届く。新潮社の「波」2021年4月号(100円)に、同社刊の大小田さくら子「やまとかたり―古事記をうたう―」(新潮社 2090円)の書評を書いたからだ。著者は、「古事記」を語るときには、稗田阿礼になろうとする人だ。つまり、シャーマン型の語り手を目指しているのであろう。その覚悟のほどが伝わってきて、感服した。

4月×日 近作、自著の「教会と千歳飴」(小学館 1320円)は、万葉学徒が書いた日本歴史文化論だが、文化を語るときに客観性などない。それは、文化とは、常にローカルなものだからだ。では、文化の語り手に何ができるのか。それは、自らの言葉が独善的になっていないか、常に反省し、自ら点検することである。

4月×日 神楽坂の八仙にて、「教会と千歳飴」の出版のお祝い。編集者と4人で短時間に――。この本の種本について、話が盛り上がる。種本の1つは、コリン・タッジの「農業は人類の原罪である」(竹内久美子訳 新潮社 935円)だ。タッジは、いきなり大規模農耕が誕生して、文明が誕生するという考え方を否定する。好きな植物や有用な植物を手元に植え、不用の雑草を除去するというような小規模農耕を最初に想定しているのだ。ところが、こういった農耕は、考古学的に検出できない。じつは、キノコ採りでも、山菜採りでもよいのだが、来年のために、必ず少しは残して、全部は採らない。とすれば、採集と農耕の中間形態もあるのだ。

4月×日 古典学徒の使命は何かと、授業をしながら、ふと考え込む。それは、「今」「ここ」「私」を始発点としながら、語りのなかにリアルに古典を蘇らせることだろう。がんばらねば……。

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