「気がつけば警備員になっていた。」堀田孝之著/笠倉出版社

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 本書は、著者自身の警備員経験を描くドキュメントだ。警備員はよく目にする仕事だが、勤務実態はあまり知られていない。私もそうだったから、25時間連続勤務、1日の歩行距離が10キロといったこと自体に驚いた。セキュリティーカードを中に忘れて部屋に入れなくなった社員からの解錠依頼、火災報知機の発報や監視カメラに写る不倫の野外プレーなど、本書には実際に勤務していなければ書けない警備員の仕事が赤裸々に描かれている。それだけで十分面白いのだが、実は私が興味を持ったのは、著者の人生そのものだ。

 横浜国立大学を1年で中退した著者は、映画製作を目指して専門学校に入学する。そして卒業製作の監督に選ばれるという栄光を手に入れるのだが、作品は空前の駄作だった。映画への道をあきらめた著者は、出版界に転じ、エロ本やアイドル本の編集プロダクションに就職する。しかし、激務に耐えかねて失踪してしまう。その後、妻と子を養うために始めたのが警備の仕事だった。真面目に仕事をしたが、不倫がばれて妻に逃げられる。しかし、その境遇に同情した幼なじみと再婚する。新しい妻のために出版社に転職するも、激務のためにすれ違い、新しい妻も出ていってしまう。そしていま著者は再び警備の仕事に戻っている。そこで今回の著作だ。

 何かを起こさないといけないクリエーティブの世界と何事も起こしてはいけない警備の世界。両極端の仕事を著者はピンボールのように揺れ動く。

 ハゲ、デブ、チビ、加齢臭と著者は自称する。しかし、2度の結婚だけでなく、著者は女性にとてもモテている。「精神的に追い詰められると女性とホテルに行きたくなる」と言うが、その欲望はかなえられているようだ。好き勝手に生きるダメ人間のクリエーターに魅力を感じる女性は、案外多いのかもしれない。

 私は小心者なので、そうした破天荒な行動に踏み切ることはできないが、正直言って、少し憧れがある。だから、本書が売れて欲しいと願いながら、爆発的には売れないで欲しいとも思う。ベストセラーになったら、著者のせっかくのダメダメぶりが、消えてなくなってしまうからだ。★★★(選者・森永卓郎)

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