北上次郎
著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「ランチ酒 今日もまんぷく」原田ひ香著

公開日: 更新日:

 本書のヒロイン、犬森祥子の職業は変わっている。「見守り屋」なのだ。聞き慣れない職業だが、ようするに、ワケあり客のそばで寝ずの番をする仕事。「中野お助け本舗」の社長亀山から、その仕事はまわってくる。亀山は「働くな、動くな、見守るだけ」と言う。客が部屋の片付けをしていると、祥子はつい手伝ってしまうからだ。

「働くほうが安易なんだよ。そこでじっと何もしない方が高度なの。そして、そのために俺らは呼ばれているの。働く方が正しいなんて思うな」

 というわけで、祥子の仕事はいつも朝か昼前に終わる。あとは部屋に帰って寝るだけなので、必ずランチを食べながら飲むことになる。

 本書はシリーズ第3弾だが、蒲田の餃子から末広町の白いオムライスまで、おそらくすべて実在の店と思われるが、次々に紹介されていく。ヒロイン祥子の、ランチを選ぶ基準ははっきりしている。酒に合うか合わないか。だから必ず、その料理に合う酒が紹介される。これが本書のキモ。

 それにしても、ホントにおいしそうだ。読んでいるだけで、とても幸せな気分になる。これ、作者が実際に食べているのではないかと思われるほど、食事シーンにはリアリティーがあふれている。口の中に、その香りと匂いと感触が、複雑な味となっていっぱいにひろがるのだ。広島の鉄板焼き屋で食べる「うにクレソン」が特においしそうだ。

(祥伝社 1650円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    宮城野部屋「永久閉鎖」コースを匂わす元横綱・白鵬、弟子もろとも浅香山部屋への移籍案

    宮城野部屋「永久閉鎖」コースを匂わす元横綱・白鵬、弟子もろとも浅香山部屋への移籍案

  2. 2
    志村けんさん女性関係も堂々と…放送されなかった交際相手

    志村けんさん女性関係も堂々と…放送されなかった交際相手

  3. 3
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  4. 4
    松本人志が裁判の前に問われているのは“遊び方の質”だ…北野武は「せこいよ」とバッサリ

    松本人志が裁判の前に問われているのは“遊び方の質”だ…北野武は「せこいよ」とバッサリ

  5. 5
    「白鵬米」プロデュースめぐる告発文書を入手!暴行に土下座強要、金銭まで要求の一部始終

    「白鵬米」プロデュースめぐる告発文書を入手!暴行に土下座強要、金銭まで要求の一部始終

  1. 6
    大谷翔平は野球だけでなく“新妻の隠し方”も超うまかった 結婚は引退後…の予想を見事に裏切る

    大谷翔平は野球だけでなく“新妻の隠し方”も超うまかった 結婚は引退後…の予想を見事に裏切る

  2. 7
    志村けんさん急逝から4年で死後トラブルなし…松本人志と比較される女性関係とカネ払い

    志村けんさん急逝から4年で死後トラブルなし…松本人志と比較される女性関係とカネ払い

  3. 8
    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  4. 9
    松本人志“性的トラブル報道”へのコメント 優木まおみが称賛され、指原莉乃が叩かれるワケ

    松本人志“性的トラブル報道”へのコメント 優木まおみが称賛され、指原莉乃が叩かれるワケ

  5. 10
    頬ゲッソリで覇気なし 相撲解説の貴乃花親方“異相”が話題

    頬ゲッソリで覇気なし 相撲解説の貴乃花親方“異相”が話題