「たくましくて美しい糞虫図鑑」中村圭一著

公開日: 更新日:

「糞虫」と聞くと、ファーブル昆虫記に登場する動物のウンチを丸めて転がすフンコロガシを思い浮かべる人が多いだろう。しかし、糞虫の99%は糞を転がさないという。

 糞虫は糞を食べるコガネムシの総称で、中でも糞を転がす習性を持つものを特にフンコロガシと呼ぶそうだ。あまり馴染みはない糞虫だが、日本にも約160種類、全国各地に生息している。

 本書は、そんな知られざる糞虫の世界を案内してくれる昆虫図鑑。

 糞虫好きが高じて奈良に「糞虫館」を開設して館長を務める著者によると、糞虫は世界一素晴らしい虫だという。

 その理由のひとつは「糞虫は見えないところで人間の役に立っている」。奈良公園にいる1300頭ものシカが1日に出す糞は約1トン。糞虫たちはこれを毎日粉砕して土に返しているのだ。これを人間の手で行うとすると年間23億円もの経費がかかるそうだ。

 また、もともと牛や羊がいなかったオーストラリアでは、糞で放牧地の衛生状態が悪化。その解決のため国家プロジェクトとして、海外から牛や羊の糞の分解力が高い糞虫が導入されたという。

 まさに糞虫は国家をも救う存在なのだ。

 Q&A式でそんな基礎知識を学んだあとは、いよいよ写真で実物と対面。

 体全体が金属光沢で宝石のような「オオセンチコガネ」や黒とオレンジで模様をつくり出している「ムネアカセンチコガネ」など、日本で見られる種から、シカのような立派な角があるタンザニアの「シカツノエンマコガネ」など海外の種まで網羅する。さらに「糞虫の聖地」である奈良公園でのフィールドワークを例に糞虫観察の実際や、飼い方までレクチャー。

 子供にプレゼントしたら第2、第3のファーブルに育つかも。

(創元社 1870円)

【連載】発掘おもしろ図鑑

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    JリーグMVP武藤嘉紀が浦和へ電撃移籍か…神戸退団を後押しする“2つの不満”と大きな野望

  2. 2

    広島ドラ2九里亜蓮 金髪「特攻隊長」を更生させた祖母の愛

  3. 3

    悠仁さまのお立場を危うくしかねない“筑波のプーチン”の存在…14年間も国立大トップに君臨

  4. 4

    田中将大ほぼ“セルフ戦力外”で独立リーグが虎視眈々!素行不良選手を受け入れる懐、NPB復帰の環境も万全

  5. 5

    悠仁さまの筑波大付属高での成績は? 進学塾に寄せられた情報を総合すると…

  1. 6

    FW大迫勇也を代表招集しないのか? 神戸J連覇に貢献も森保監督との間に漂う“微妙な空気”

  2. 7

    結局「光る君へ」の“勝利”で終わった? 新たな大河ファンを獲得した吉高由里子の評価はうなぎ上り

  3. 8

    飯島愛さん謎の孤独死から15年…関係者が明かした体調不良と、“暗躍した男性”の存在

  4. 9

    巨人がもしFA3連敗ならクビが飛ぶのは誰? 赤っ恥かかされた山口オーナーと阿部監督の怒りの矛先

  5. 10

    中日FA福谷浩司に“滑り止め特需”!ヤクルトはソフトB石川にフラれ即乗り換え、巨人とロッテも続くか