著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「塞王の楯」今村翔吾著

公開日: 更新日:

 どんな攻めもはね返す最強の石垣を造れば、戦いはなくなるのではないかと、匡介は考える。攻めても無駄になると人々が考えるからだ。彼は、石垣造りの職人集団、穴太衆の飛田屋の後継者として育てられた青年で、戦いで亡くなった両親や妹のような人を、これ以上出したくないと考えて石積みの技を磨き続ける。

 対するは、鉄砲作りの職人集団、国友衆の次期頭目彦九郎。彼は、最強の鉄砲を作れば皆が恐れるようになり、戦をなくせるのではないかと考える。

 舞台は、関ケ原の戦い前夜の大津城。攻めてくるのは西軍最強といわれる立花宗茂を含む毛利軍──という戦国合戦小説だが、主役を戦う兵や将にせず、石垣を造る職人にしたのがミソ。なんとこの職人たち、戦いの最中に石垣の一部が破損すると、矢が飛び交っている戦場に入っていって修復するのだ。

 依頼があると陸奥の国から九州まで石垣を造りに行ったという当時の石垣事情をはじめ、さまざまなディテールがたっぷりと描かれるのも興味深い。

 さらに特筆すべきは、大津城主の京極高次のキャラクターだ。この男、戦いに弱くてすぐに逃げだし、先見の明もないから秀吉を攻めたりもする。どう考えても簡単に滅ぼされる運命にある男だが、そうはならないのがケッサクだ。愛嬌があるのだ。この京極高次像が素晴らしい。

(集英社 2200円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  2. 2

    巨人・桑田二軍監督の電撃退団は“事実上のクビ”…真相は「優勝したのに国際部への異動を打診されていた」

  3. 3

    クマ駆除を1カ月以上拒否…地元猟友会を激怒させた北海道積丹町議会副議長の「トンデモ発言」

  4. 4

    巨人桑田二軍監督の“排除”に「原前監督が動いた説」浮上…事実上のクビは必然だった

  5. 5

    クマ駆除の過酷な実態…運搬や解体もハンター任せ、重すぎる負担で現場疲弊、秋田県は自衛隊に支援要請

  1. 6

    露天風呂清掃中の男性を襲ったのは人間の味を覚えた“人食いクマ”…10月だけで6人犠牲、災害級の緊急事態

  2. 7

    高市自民が維新の“連立離脱”封じ…政策進捗管理「与党実務者協議体」設置のウラと本音

  3. 8

    阪神「次の二軍監督」候補に挙がる2人の大物OB…人選の大前提は“藤川野球”にマッチすること

  4. 9

    恥辱まみれの高市外交… 「ノーベル平和賞推薦」でのトランプ媚びはアベ手法そのもの

  5. 10

    引退の巨人・長野久義 悪評ゼロの「気配り伝説」…驚きの証言が球界関係者から続々