著者のコラム一覧
新井平伊順天堂大学医学部名誉教授

1984年、順天堂大学大学院医学研究科修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学部講師、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授を経て、2019年からアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。アルツハイマー病の基礎と研究を中心とした老年精神医学が専門。日本老年精神医学会前理事長。1999年、当時日本で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。著書に「脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法」(文春新書)など。

「あれ、なんだっけ?」…名前が出てこない時は脳活性化のチャンス

公開日: 更新日:

 都内在住の50代女性のエピソードです。同年代の友人とタクシーで移動していた時、少し前にヒットした映画の話で盛り上がったそうです。

 ところが、主人公ではないが重要な役を演じた俳優の名前が出てこない。「別の映画でああいう役を演じていた、あの人」などと説明すると、友人も「ああ、あの人?」となったのですが、お互い名前が出てこない。

 スマホで検索すると一発で名前が判明することは2人ともわかっているのですが、「それじゃつまらないよね」となり、あれやこれやとその俳優に関連する用語を出し合い、「それを演じたのは別の役者だよ」などと笑い合いながら、10分ばかりしてやっと“正解”にたどり着いたそうです。タクシーを降りる時、運転手さんから「俳優さんの名前、言いたくてうずうずしていました」と言われたとか。

 今は何でもすぐに調べられる時代ですが、あえてそうせず、「ああだったっけ、こうだったっけ」と楽しみながら考えるのは、脳トレとしてすごくいいと思います。別に正解にたどり着かなくてもいいのです。誰かと一緒に、なかなか思い出せないことに笑い転げたり、別の思い出話へと展開していったりすれば、なおいいですね。

 私のクリニックで開いている健脳カフェでも、懐かしい歌を歌いながら、左手と右手で別々の動きをするプログラムなどをやっています。これは「正しくできる」ことを目的としているのではありません。なかなか簡単にできないものにチャレンジし、それを楽しむことで、脳が活性化し、認知症対策につながるのです。

 さて、このプログラムでやっている「歌う+左右それぞれの手で違う動きをする」は、デュアルタスク(二重課題)といいます。一度に2つ以上の動作をすることは、脳のさまざまな部分が刺激されるので、認知症対策にもってこいです。ぜひ、積極的に日常生活に取り入れてほしいと思います。

 もし、何らかの仕事(もちろん家事、子育ても含みます)を持っているなら、自然とデュアルタスクをこなしていることでしょう。要注意なのは、定年退職をし、家事はパートナーに任せっぱなしで、暇を持て余している方々です。年代的に男性が多くを占めるかと思いますが、「寝て、ご飯を食べて、新聞を読み、テレビを見て、散歩をして……」という生活は、脳への刺激が乏しく、認知機能低下を容易に招いてしまいます。

 家事は、デュアルタスクの連続です。これをやらない手はありません。しかも、家事能力を身につけることは、生きる力を手に入れることとイコールです。「自分の方が先に逝く」と漠然と思っている方もいるかもしれませんが、そうとは限りません。パートナーに先立たれて、家事能力ゼロの自分だけが残ってしまったら……。お金さえあれば生活は何とかなるかもしれませんが、味気ない日々になるのではないでしょうか。まずはできそうな家事から、今日を機に始めることを強くお勧めします。

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