ニッポンの防衛
「国家安全保障とインテリジェンス」北村滋著
ロシア、中国、北朝鮮。アジアの危機が迫る中、日本は「戦略3文書」を閣議決定し、保守派は快哉を叫ぶ。今、ニッポンの防衛をどうすればいいのか。
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「国家安全保障とインテリジェンス」北村滋著
「安全保障」と「インテリジェンス」。昔なら軍事防衛と諜報活動と呼ばれたが、今やこれが時代の合言葉。これを“全部乗せ”にしたような書が、本書はまさにその中枢にあった元国家安全保障局長による概説。
著者は警察官僚からフランス留名だ学を経て外事警察エリートの道を歩み、同世代の安倍政権のもとで重用された。安倍政権下ではそれまで外務省と防衛省でバラバラに対応した安全保障政策が一本化され、国家安全保障会議の創設で「『普通の国』に近づいた」という。会議では議題が2件以下、配布資料も簡潔明瞭がモットー。法解釈から省庁利権まで微妙な側面を多分に含む分野ゆえの配慮だろう。
さらにドイツ法の精神にのっとって「憲法は変わる、されど行政法は残る」のが大事と説く。
日本は占領統治で行政制度が大きく変わったが、そういう場合でも、国家安全保障の観点からは官庁の人的構成や新しい行政制度のモチーフは可能な限り維持されるべきだとする。
官僚による研究書である本書には、日本の安全保障政策が「反共主義」で戦前から一貫している点など、さまざまな論点が多彩に詰め込まれて、類書にない特徴となっている。 (中央公論新社 2200円)
「日本の防衛政策」杉本康士著
「日本の防衛政策」杉本康士著
2022年、閣議決定された「戦略3文書」は国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画の3つ。
本書は冷戦終結後30年以上にわたる歩みの中で、防衛政策がどのように策定され、変化してきたかをたどる。1990年代、アメリカ側は日本の軍備増強を歓迎せず、在日米軍は「瓶のフタ」と自称した。細川内閣時代には大幅な軍縮に向かったが、これを著者は「理念なき兵力削減」とする。90年代末には中国警戒論が出るが、直後の9.11テロで機運は消し飛ぶ。2010年代はオバマ政権のもとで対中融和が主流化するが、これは失敗に終わる。結局、今や対中警戒を厳とすべき時局となり、第2次安倍政権以降、今に至る安全保障強化の流れが確定した。
著者は産経新聞で外交畑を中心に歩んできた現外信部次長。日米の関係者から「大成功」と評される防衛3文書の策定までの歩みが内部的な視点からわかる大冊だ。 (作品社 2970円)
「米中戦争を阻止せよ」村野将著
「米中戦争を阻止せよ」村野将著
トランプ政権の1期目と2期目では閣僚もホワイトハウスの顔ぶれも大きく異なる。本書はアメリカの保守系シンクタンクに勤務するポスト団塊ジュニア世代の著者が1.2期双方の政権に関わる安全保障政策の専門家へ行ったインタビューを収録し、日本が直面する「戦略のリアル」を解説する。
著者によればアメリカで安全保障政策に強い影響力を持つのは日米関係に特化した「日米コミュニティー」ではなく、国家の大戦略を議論する「戦略コミュニティー」だ。超党派の集まりで、大統領選の成り行きで議論が変わったりもしない。そこでの全体像を知らないと、対中抑止や日本の役割といった話も現実味を持たないのだという。
たとえば第2期政権のコルビー国防次官は、ウクライナの戦争は憂慮すべきだが、日本がそこに注意を取られ、国内で生産したパトリオットミサイルを輸出するのは中国の脅威を甘く見ていると警告する。台湾有事への備えは足りないところだらけ。日本は頭の上のハエを追うべきというわけだ。
トランプ政権であってもなくても中国の脅威には強力かつ迅速に対応すべきだという議論が全体を貫いている。 (PHP研究所 1100円)