公開日: 更新日:

「J」延江浩著

 IT企業を経営する母袋(もたい)晃平は、ある日友人に紹介され、ベストセラー作家で尼僧の「J」と食事をする。母袋は37歳、Jは85歳だった。別れ際、母袋は差し出されたJの小さな手を握ったとき、恋愛を予感する。

 やがて母袋は、Jのネット配信の人生相談の担当者として嵯峨野の庵に通いだし、ある夜、2人は結ばれた。男をとりこにするテクニックと、自分だけに見せる可愛らしさ、作家としての凄みに母袋は溺れていく。

 Jは歴代の情夫について楽しそうに語り、母袋は嫉妬で泣きそうになる。会えない日はJの著作を手に取り、Jのことを考えた。しかし、付き合って5年、2人の関係に影が忍び寄る。Jは90歳になり、老いが一気に進んだ。そして何より、2人を結ぶネットの人生相談サイトがビジネスとして成立しなくなっていた。Jは母袋に別れを告げる。

 年の差、半世紀の男女の愛の軌跡を描いた話題の書。母袋の告白を受けたという著者が、さまざまな裏付けを取りながら、2人の物語を追った。

 作中にはいくつものJの著作の一部が挿入され、彼女の情夫たちは実名で記されている。Jとは一昨年99歳で亡くなった尼僧だとわかるが、果たして晩年の性愛は本当なのか? の謎も呼ぶ。母袋の温かくも戸惑いの視線から、自分の生を生き切ったJの姿が浮かび上がる。

(幻冬舎 1760円)

【連載】週末に読みたいこの1冊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース「佐々木朗希放出」に現実味…2年連続サイ・ヤング賞左腕スクーバル獲得のトレード要員へ

  2. 2

    国分太一問題で日テレの「城島&松岡に謝罪」に関係者が抱いた“違和感”

  3. 3

    ギャラから解析する“TOKIOの絆” 国分太一コンプラ違反疑惑に松岡昌宏も城島茂も「共闘」

  4. 4

    片山さつき財務相の居直り開催を逆手に…高市首相「大臣規範」見直しで“パーティー解禁”の支離滅裂

  5. 5

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  1. 6

    小林薫&玉置浩二による唯一無二のハーモニー

  2. 7

    森田望智は苦節15年の苦労人 “ワキ毛の女王”経てブレーク…アラサーで「朝ドラ女優」抜擢のワケ

  3. 8

    臨時国会きょう閉会…維新「改革のセンターピン」定数削減頓挫、連立の“絶対条件”総崩れで手柄ゼロ

  4. 9

    阪神・佐藤輝明をドジャースが「囲い込み」か…山本由伸や朗希と関係深い広告代理店の影も見え隠れ

  5. 10

    阪神・才木浩人が今オフメジャー行きに球団「NO」で…佐藤輝明の来オフ米挑戦に大きな暗雲