高野秀行(ノンフィクション作家)

公開日: 更新日:

8月×日 7月下旬に私は「イラク水滸伝」(文藝春秋 2420円)という新刊を出したのだが、ほぼ同じ時期に、早稲田大学探検部の後輩で冒険家・作家の角幡唯介も新刊「裸の大地・第二部 犬橇事始」(集英社 2530円)を出した。角幡の冒険ノンフィクションはいつも凄まじくレベルが高いので、「どうして俺の新刊にぶつけてくるんだよ!? 俺の本がかすむだろ!!」とむかついたが、読んでみるとそんなことはどうでもよくなるぐらい興奮した。この数年、彼は北極で犬橇に挑戦している。10頭近くの犬を集め、鍛え、怒鳴り散らしながら、走らせる。この高校野球の監督と悪ガキ選手みたいな関係性が面白いったらない。いっぽうで、北極の犬飼いには日本の犬好きには想像を絶するような厳しい判断を下さねばならないときがある。ラストは衝撃。角幡は文学者としても現代日本で最高峰だと思う。

8月×日 同じく探検部の後輩である毎日新聞記者の服部正法著「裏切りの王国 ルポ・英国のナショナリズム」(白水社 2640円)を読む。イギリスのブレグジット(EU離脱)問題を徹底取材し「連合王国」の正体に鋭く迫る。驚いたのはイギリスの主権は国民ではなく議会にあり、それどころか憲法が存在しないこと。むちゃくちゃ面白くて、イギリスに1ミリも興味のない私がむさぼり読んでしまった。

8月×日 ゴリラ研究の第一人者・山極寿一先生とシジュウカラ語に文法があることを突き止めて動物言語学を世界で初めて立ち上げた鈴木俊貴先生の対談「動物たちは何をしゃべっているのか?」(集英社 1870円)を読む。今後、言語学は動物の言語も視野に入れることでものすごい展開が起きるはず! と大興奮してしまった。

【連載】週間読書日記

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    新生阿部巨人は早くも道険し…「疑問残る」コーチ人事にOBが痛烈批判

  2. 2

    大谷翔平は米国人から嫌われている?メディアに続き選手間投票でもMVP落選の謎解き

  3. 3

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  4. 4

    大谷翔平の来春WBC「二刀流封印」に現実味…ドジャース首脳陣が危機感募らすワールドシリーズの深刻疲労

  5. 5

    巨人桑田二軍監督の“排除”に「原前監督が動いた説」浮上…事実上のクビは必然だった

  1. 6

    阪神の日本シリーズ敗退は藤川監督の“自滅”だった…自軍にまで「情報隠し」で選手負担激増の本末転倒

  2. 7

    維新・藤田共同代表にも「政治とカネ」問題が直撃! 公設秘書への公金2000万円還流疑惑

  3. 8

    35年前の大阪花博の巨大な塔&中国庭園は廃墟同然…「鶴見緑地」を歩いて考えたレガシーのあり方

  4. 9

    米国が「サナエノミクス」にNO! 日銀に「利上げするな」と圧力かける高市政権に強力牽制

  5. 10

    世界陸上「前髪あり」今田美桜にファンがうなる 「中森明菜の若かりし頃を彷彿」の相似性