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井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

猫の本棚(神保町)あの大島渚監督の遺本「大島文庫」から「大森文庫」「青山文庫」まで

公開日: 更新日:

 神保町の一隅。外壁レンガのビルに、青色枠のガラス窓。入ると、昨年1月オープンなのに、「もう長いです」然と見えるのは、アンティークな空気に満ちているからだろうか。

 3カ所に独特の彩色でウサギが描かれた欄間あり。「すてきですね」と薮から棒に言うと、「東北の廃寺にあった、160~170年前のものなんです」と空間プランナーの店主・水野久美さん。この店は、「サロンを作りたいと発想した」と言う。時同じくして、映画評論家・映画監督の夫、樋口尚文さんが、大島渚監督の遺族、つまり女優の小山明子さんから遺本の全てを譲り受けた。欲しい人に手渡していきたいと考え、水野さんのサロン構想が「大島渚文庫」を売る+シェア型に発展した古本屋なのだそう。

貸棚と「文庫」のアンティークな古書店

 縦35×横35×奥行き30センチの書棚が150棚並び、そのうち100が「“小さな本屋”をやりたい」という棚主さんの棚、50が樋口さん提供の「大島渚文庫」「大森一樹文庫」「青山真治文庫」など。そう。樋口さんの元に大森一樹監督、青山真治監督の遺族からも遺本が集まってきたのだ。「こちらからお声がけしたわけでないのに」って、スゴすぎます!

 さてさて大島渚監督はどんな本をお読みだったのか。堀田善衛、河野典生、石川達三、有吉佐和子あり、ドイツ映画「ルートヴィヒ」関係書あり、「世界セクシー文学全集」の一冊あり。樋口さんが「これは買い手が決まってますが」と、あの東松照明が長崎の被爆の痕跡を撮った写真集を見せてくれ、息をのむ。

 そして、大森一樹文庫・青山真治文庫でも、両監督とも東西の哲学書、古今の小説、実用書も愛読していたのだとひしひし。シェア本棚は、映画と無関係本も多く、京都の東本願寺出版が仏教、親鸞に関する本、春風亭一之輔師匠が落語CDを並べていたり。はたまた、ごく一般の人たちが哲学関係書や岡田あーみんのコミック「こいつら100%伝説」シリーズもずらり。見どころ、読みどころ多すぎて、店から出られなくなった。

◆千代田区西神田2-2-6-102/JR総武線水道橋駅・地下鉄神保町駅から徒歩5分/14時半~19時半、月・火・水曜休み

私が書いた本

「大島渚 全映画秘蔵資料集成」大島渚プロダクション監修、樋口尚文編著

 キネマ旬報「映画本大賞2021」第1位に選ばれた。B5判・820ページ。

「大島家の資料庫に、大島渚監督が幼少期から晩年までに目を通された資料が堆積していました。それらすべてをできる限りアーカイブ化。映画製作に関わる企画ノート、台本、絵コンテ、書簡、撮影スチール、新聞雑誌の記事スクラップ、ご本人による回想等に加え、私が書き下ろした解説及び作品論を収録しました」

(国書刊行会 1万3200円)

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