「谷から来た女」桜木紫乃著

公開日: 更新日:

「谷から来た女」桜木紫乃著

 主人公はアイヌの出自を持つ赤城ミワ。ミワに関わった人たちの語りを通し、彼女の生い立ちからデザイナーとして活躍する現在までを描いていく連作短編だ。

 大学教授の滝沢龍は、地元テレビ局の番組審議会でミワと出会った。滝沢はミワの迷いのない言葉や態度、アイヌ紋様デザイナーとしての矜持に惹かれ、やがてミワに誘われるような形で2人の関係が始まる。そんな折、ミワに事務所の金を持ち逃げされるトラブルが発生。滝沢のアドバイスは立場の異なるミワと距離をつくってしまい、さらに取り返しのつかないひと言で別れは決定的なものになってしまう(表題作)。

「ひとり、そしてひとり」に登場するのは、美術学校の同期生・千紗。アクセサリーショップとセクシーパブで働く千紗は、すすきので偶然にミワと再会。卒業と同時に工房を持ったミワを羨みつつも、一緒に過ごすうちに言い訳をしてきた自分の格好悪さを思い知る。

 本人よりも先に察知する勘、嘘を見抜く瞳──。ミワと関わった人たちは、自分の無意識に気づき、ある者は傷つき、ある者は抵抗する。ミワの問いは、登場人物のみならず読む者の心も揺さぶるに違いない。

(文藝春秋 1870円)

【連載】木曜日は夜ふかし本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    上白石萌音・萌歌姉妹が鹿児島から上京して高校受験した実践学園の偏差値 大学はそれぞれ別へ

  2. 2

    大谷 28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」とは?

  3. 3

    学力偏差値とは別? 東京理科大が「MARCH」ではなく「早慶上智」グループに括られるワケ

  4. 4

    ドジャース大谷の投手復帰またまた先送り…ローテ右腕がIL入り、いよいよ打線から外せなくなった

  5. 5

    よく聞かれる「中学野球は硬式と軟式のどちらがいい?」に僕の見解は…

  1. 6

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?

  2. 7

    進次郎農相の「500%」発言で抗議殺到、ついに声明文…“元凶”にされたコメ卸「木徳神糧」の困惑

  3. 8

    長嶋茂雄さんが立大時代の一茂氏にブチ切れた珍エピソード「なんだこれは。学生の分際で」

  4. 9

    (3)アニマル長嶋のホームスチール事件が広岡達朗「バッドぶん投げ&職務放棄」を引き起こした

  5. 10

    米スーパータワマンの構造的欠陥で新たな訴訟…開発グループ株20%を持つ三井物産が受ける余波