「TUBE」ソン・ウォンピョン著、矢島暁子訳

公開日: 更新日:

「TUBE」ソン・ウォンピョン著、矢島暁子訳

 ソウルに住む、平凡な中年男キム・ソンゴン・アンドレアは事業に失敗し、意を決して向かった漢江へ身投げするが、それも失敗。不本意にもこの世に押し戻されたキム・ソンゴンは、ふと鏡に映った自分のぶざまな姿を見て驚愕。せめて姿勢を直そう、写真に写る若かりし頃の自分に少しでも近づこうと思いつく。実際、背筋を伸ばしてみると小さな挑戦への欲求が芽生えた。

 食事を配達する仕事をしながら、ひたすら背筋を伸ばすことを目標に過ごしているうちに、ソンゴンは幼稚園で働く男性の温かな笑顔に触れ、自分も真似をすることに。次第にソンゴンは、これまでの成功だけを追い求めてきた人生の中で失ってきたものに気づく。自然や出来事を眺めることもせず、褒め言葉を惜しみ、感動することを忘れ、家族や友人を思いやる心を失っていたと……。

 本書は、2020年の本屋大賞翻訳小説部門第1位「アーモンド」の著者による最新刊。ないない尽くしの中年男が、人生改造プロジェクトを立ち上げ、YouTubeチャンネルで悩める人を応援していく。

 作中には幾度となく「変化」という言葉が出てくる。心身をすり減らすソンゴンの姿にわが身を重ねながらも、彼の一歩に勇気づけられるだろう。 (祥伝社 1870円)

【連載】木曜日は夜ふかし本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高画質は必要ない? 民放各社が撤退検討と報じられた「BS4K」はなぜ失敗したのですか?

  2. 2

    大手家電量販店の創業家がトップに君臨する功罪…ビック、ノジマに続きヨドバシも下請法違反

  3. 3

    落合監督は投手起用に一切ノータッチ。全面的に任せられたオレはやりがいと緊張感があった

  4. 4

    自民党総裁選の“本命”小泉進次郎氏に「不出馬説」が流れた背景

  5. 5

    「二股不倫」永野芽郁の“第3の男”か? 坂口健太郎の業界評…さらに「別の男」が出てくる可能性は

  1. 6

    今思えばあの時から…落合博満さんが“秘密主義”になったワケ

  2. 7

    世界陸上「前髪あり」今田美桜にファンがうなる 「中森明菜の若かりし頃を彷彿」の相似性

  3. 8

    三谷幸喜がスポーツ強豪校だった世田谷学園を選んだワケ 4年前に理系コースを新設した進学校

  4. 9

    広陵暴力問題の闇…名門大学の推薦取り消し相次ぎ、中井監督の母校・大商大が「落ち穂拾い」

  5. 10

    佐々木朗希いったい何様? ロッテ球団スタッフ3人引き抜きメジャー帯同の波紋