「Life goes on 黒山キャシー・ラム作品集」黒山キャシー・ラム著

公開日: 更新日:

「Life goes on 黒山キャシー・ラム作品集」黒山キャシー・ラム著

 出身地の香港と母親の母国である台湾を拠点に活動する人気イラストレーターの作品集。

 とはいっても、本書のために描き下ろされた巻頭の作品から、日本人の読者にも親しみを感じられ、著者の作品世界にすぐに引き込まれていくことだろう。

 その作品は、黒イヌを中心に、さまざまなイヌたちが大きな湯船でくつろいでいる姿を上から俯瞰して描いているのだが、浴場の壁には日本語で書かれた「お願い」と題した注意書きや、「うどん」のポスターなどが張られ、どう見ても日本の銭湯なのだ。

 幼い頃から日本のアニメやマンガに親しみ、日本が大好きで、何度も旅行で来日しているという。作品には、いたるところに日本の影響が垣間見える。

 銭湯のお隣の作品は、カウンターに並んでラーメンと餃子、ライスを食べているカピバラ。同じペアが回転寿司を食べている作品もあり、黒ヒョウが営む屋台でおでんを食べるカラスなど、どれも日本人に馴染みのある風景を描いた作品が並ぶ(生活しているのがカピバラたちだということを除いては)。

 お察しの通り、作品のモチーフになっているのは、イヌやネコをはじめ、カピバラや、フラミンゴにハクチョウ、ゴリラやライオン、マントヒヒなどのお馴染みの動物たちで、ヒトは登場しない。

 擬人化された彼らが、人間と同じように寝室で寝たり、リビングに集まって一家だんらんのようにテレビを見ている作品などもある。

 食事の用意が整ったテーブルに座って、一心不乱にとうもろこしを丸かじりしているネコを描いた作品は、アニメの「岸部露伴は動かない」の中の「どうやってとうもろこしをマナーよく食べるか」というシーンに触発されて描いたものだという。

 ほかにも、デスクに座ってパソコンに向かいながら終わらない仕事に雄たけびをあげるライオンを描いた「Mad Lion」や、「世界をぶっ潰す」と題し、地球を両前脚で抱えたハチワレネコなどもいる。

 ハチワレの目はどこか虚無的で、本当に世界を潰しにかかっているのかもしれない。実は、著者の愛猫がボールを絵のように持っていたのが制作のきっかけになったという。

 どれもぬくもりのある柔らかな線で描かれたイラストなのだが、ところどころに、こうしたブラックな隠し味が効いており、見ている者の心をニヤリとさせる。

 絵のタッチも多様。

 サイドカーに乗った相棒とバイクでドライブをするネコや、スクーター、オープンカーに乗ったネコなど丁寧に彩色された作品は、額装して部屋に飾りたくなる。

 かと思えば、習作風のスケッチや、物語性はないがさまざまな動物を擬人化せずリアルに描いた作品(よく見ると描かれている台紙は段ボールの切れ端だ)、さらに立体オブジェやコミックまで。著者の作品世界を丸ごと楽しめる構成になっており、一読したら多くの読者がその虜になるはず。 (マール社 2860円)

【連載】GRAPHIC

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    JリーグMVP武藤嘉紀が浦和へ電撃移籍か…神戸退団を後押しする“2つの不満”と大きな野望

  2. 2

    広島ドラ2九里亜蓮 金髪「特攻隊長」を更生させた祖母の愛

  3. 3

    悠仁さまのお立場を危うくしかねない“筑波のプーチン”の存在…14年間も国立大トップに君臨

  4. 4

    田中将大ほぼ“セルフ戦力外”で独立リーグが虎視眈々!素行不良選手を受け入れる懐、NPB復帰の環境も万全

  5. 5

    悠仁さまの筑波大付属高での成績は? 進学塾に寄せられた情報を総合すると…

  1. 6

    FW大迫勇也を代表招集しないのか? 神戸J連覇に貢献も森保監督との間に漂う“微妙な空気”

  2. 7

    結局「光る君へ」の“勝利”で終わった? 新たな大河ファンを獲得した吉高由里子の評価はうなぎ上り

  3. 8

    飯島愛さん謎の孤独死から15年…関係者が明かした体調不良と、“暗躍した男性”の存在

  4. 9

    巨人がもしFA3連敗ならクビが飛ぶのは誰? 赤っ恥かかされた山口オーナーと阿部監督の怒りの矛先

  5. 10

    中日FA福谷浩司に“滑り止め特需”!ヤクルトはソフトB石川にフラれ即乗り換え、巨人とロッテも続くか