「トランプの電撃作戦」古村治彦著/秀和システム(選者:佐藤優)

公開日: 更新日:

トランプ再登板で日中関係は改善される

「トランプの電撃作戦」古村治彦著

 古村治彦氏は、アメリカ政治の内在的論理をよく理解しているレベルの高い専門家だ。評者が信頼するアメリカ専門家である。

 古村氏は、トランプ氏の大統領再登板の影響が日中関係の改善をもたらしつつあるとの見方を示す。

<石破・トランプ会談(引用者註*2月7日、於ワシントン)決定の報道が出たのは、2025年1月31日だった。同日、中国の王毅外相が「自民党の森山裕幹事長と1月中旬に北京で会談した際、2月前半に中国で開かれる冬季アジア大会に合わせた石破茂首相の訪中を非公式に提案した」という報道が出た(共同通信2025年1月31日付記事「石破首相の2月訪中提案 王外相、対日安定化急ぐ」)。この記事で重要なのは、タイトルにある、「対日安定化を急ぐ」という言葉だ。/これはつまり、「トランプ政権になって大きな戦争はないだろうが、経済問題などで何をしてくるか分からない。日本といがみ合っていても仕方がないので関係を良くしておこう」という意図が透けて見える。トランプの予測不可能性が、中国側の不安感を生み出し、それが日中関係に影響を与え、問題をできるだけ少なくしておこうという行動につながり、結果として、東アジア地域の国際関係に「小康状態」をもたらそうとしている>。

 2月の石破訪中は実現しなかった。ただし、中国は日本人へのビザ免除を一方的に決定し、対日関係改善を希望していることを行動で示した。また福島第1原発の処理水問題で、中国への輸入を全面的に禁止している日本産水産物も近く禁止措置が解かれるであろう。スパイ容疑で拘束されている5人の日本人も「不良外国人の追放」という形で日本に送還されると思う。

 中国は石破首相の訪中、習近平国家主席の訪日を視野に入れた環境整備を行っているのだ。

 トランプ政権は中国を主敵としているので、日中関係は今後緊張すると予測する国際政治学者が少なくないが、評者は別の考えだ。帝国主義大国であるアメリカ、中国、日本は、ときには対立しつつも、さまざまな取引(ディール)を行うことで、平和的にすみ分けていくことになるであろう。 ★★★

 (2025年4月4日脱稿)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高画質は必要ない? 民放各社が撤退検討と報じられた「BS4K」はなぜ失敗したのですか?

  2. 2

    気温50度の灼熱キャンプなのに「寒い」…中村武志さんは「死ぬかもしれん」と言った 

  3. 3

    広陵暴力問題の闇…名門大学の推薦取り消し相次ぎ、中井監督の母校・大商大が「落ち穂拾い」

  4. 4

    巨人阿部監督はたった1年で崖っぷち…阪神と藤川監督にクビを飛ばされる3人の監督

  5. 5

    (4)指揮官が密かに温める虎戦士「クビ切りリスト」…井上広大ら中堅どころ3人、ベテラン2人が対象か

  1. 6

    U18日本代表がパナマ撃破で決勝進出!やっぱり横浜高はスゴかった

  2. 7

    日本ハム・レイエスはどれだけ打っても「メジャー復帰絶望」のワケ

  3. 8

    志村けんさん急逝から5年で豪邸やロールス・ロイスを次々処分も…フジテレビ問題でも際立つ偉大さ

  4. 9

    佐々木朗希いったい何様? ロッテ球団スタッフ3人引き抜きメジャー帯同の波紋

  5. 10

    (2)事実上の「全権監督」として年上コーチを捻じ伏せた…セVでも今オフコーチ陣の首筋は寒い