「かなえびと」小倉孝保著

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「かなえびと」小倉孝保著

 野生のイルカと泳ぎたい、憧れのギタリストに会いたい、自分の絵本をつくりたいなど、難病と闘う子どもたちの夢をかなえる手助けをライフワークとして生きた人がいる。

 大野寿子は、米国生まれのNPO活動の日本版「メイク・ア・ウィッシュ オブ ジャパン」(MAWJ)の初代事務局長。とびきりの笑顔とパワフルな行動力で多くの人の力を結集し、3000人を超える子どもたちの夢をかなえた「かなえびと」である。退職後も理事として講演活動を行い、出会った子どもたちのことを伝道師のように語り続けた。講演に臨むとき、キリスト教徒である寿子は心の中でつぶやく。〈神さま、私をお使いくださり、ありがとうございます〉

 MAWJの活動を通して寿子が見たのは、命の火が消える直前まで他者の幸せを願う子どもたちの姿だった。痛みや苦しみに耐えながら、両親を気遣い、他の病室の子どもの心配をする。例外はなかった。だから寿子は確信した。人間は本来、他人に優しい存在なのだと。

 2024年2月末。もうすぐ73歳になる寿子は、突如、末期がんの宣告を受ける。肝内胆管がんのステージ4。自分に残された時間が短いことを知った寿子は、「最期の大野プロジェクト」に取りかかった。MAWJの活動を広く知ってもらうために、絶版になっていた自著「メイク・ア・ウィッシュ 夢の実現が人生を変えた」(2017年刊)を買い取り増刷し、希望する人に送り届けるというものだった。家族、友人、知人、夢をかなえた子どもの親など、寿子を愛してやまない大勢の人に助けられ、残り時間と競争するように、プロジェクトは進んだ。

 ノンフィクション作家である著者は、寿子の自宅に通い詰め、その思いを聴き取った。家族同様の距離から寿子を見守り、神のもとに旅立つまでのかけがえのない時間をつぶさに書き記した。

 命の意味を見つめた感動のノンフィクション作品。本作は、寿子の夢だった「最期の大野プロジェクト」を確実に継承していくことだろう。 

(文藝春秋 1925円)

【連載】ノンフィクションが面白い

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