歌舞伎座「大物浦」仁左衛門は必見 迫真の演技という次元を超えていた

公開日: 更新日:

 鼠小僧次郎吉は、金を騙し取られて心中しようとした若いカップルの窮地を救うため、武家屋敷から百両を盗み出し、二人に渡すのだが、ここから思わぬ展開となっていく。登場する人物たちが、実は夫婦だったとか親子だったというのは黙阿弥のいつものパターンで、ご都合主義と言えばそれまでだが、歌舞伎とはそういうものなのだから、問題はない。

 金持ちから盗み、貧しい者に与えるカッコいいヒーローとしてではなく、「苦悩する義賊」としての鼠小僧次郎吉を、菊之助は丁寧に演じていく。痛快時代劇的なものを予想していたので、よい意味で裏切られた。

 菊之助の息子、丑之助が蜆(しじみ)売りの役で父子共演しているが、御曹司の特別出演的なものではなく、セリフが多くキャラクターとして造形されている役をしっかりと演じていた。この配役を父子で演じるのは93年ぶりとか。

 演じ納めをする名優がいる一方で、少しずつ役者の道を歩む子役がいる。そういう2月の歌舞伎座だ。

(作家・中川右介)

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人がソフトB自由契約・有原航平に「3年20億円規模」の破格条件を準備 満を持しての交渉乗り出しへ

  2. 2

    長瀬智也が国分太一の会見めぐりSNSに“意味深”投稿連発…芸能界への未練と役者復帰の“匂わせ”

  3. 3

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  4. 4

    元TOKIO松岡昌宏に「STARTO退所→独立」報道も…1人残されたリーダー城島茂の人望が話題になるワケ

  5. 5

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  1. 6

    西武にとってエース今井達也の放出は「厄介払い」の側面も…損得勘定的にも今オフが“売り時”だった

  2. 7

    立花孝志容疑者を追送検した兵庫県警の本気度 被害者ドンマッツ氏が振り返る「私人逮捕」の一部始終

  3. 8

    日吉マムシダニに轟いた錦織圭への歓声とタメ息…日本テニス協会はこれを新たな出発点にしてほしい

  4. 9

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  5. 10

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…