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蘆野吉和日本在宅医療連合学会代表理事会長 日本ホスピス・在宅ケア研究会理事長 庄内保健所医療監

1978年、東北大学医学部卒。80年代から在宅緩和医療に取り組む。十和田市立中央病院院長・事業管理者、青森県立中央病院医療管理監、社会医療法人北斗地域包括ケア推進センター長、鶴岡市立荘内病院参与などを歴任し現職。

病院では患者の尊厳よりも「安全」と「管理」が優先される

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「喀痰吸引だって、鼻や口、ときには切開した気管から細い管を入れて、痰や唾液など分泌物を吸い出すため、苦しい思いをします」

 気管切開や人工呼吸器を使うことになれば自力で喀痰しにくいため、吸引回数も当然増えていくそうだ。

 もしも患者が認知症ならば、治療への理解も難しい。それで体を拘束されれば、高齢者の場合、筋力はあっという間に落ちていく。

「治らない人に治す治療が続けられたり、緩和できるはずの苦しみが放置されたりするという現状もあります。治療によってQOL(生活の質)が低下し、治るという希望を持たされながら、治療という喧騒の中で一生を終えてしまうことも珍しくありません」

 幸い救命できたとしても、積極的な治療をきっかけに何年も寝たきりになり、元の生活に戻れず亡くなることもあるという。

「どのような状態になっても命を永らえたいと考えるのならば、積極的な治療をしてくれる病院を選択した方がいいでしょう。ただし“その人らしさや生き甲斐”を失わずに医療やケアを受けるのは難しい。一方で在宅医療は、その人の生活や価値観を大切にする医療です。その人の尊厳を保ちながら、望むような医療の形でサポートすることができます。病院でもあまり使われない高容量のモルヒネを使うことも可能ですし、胸水排液や腹水排液だってできます。医療は、その人の生活の質を高めるための“黒衣”です。人生を支配するものではありません」

 蘆野さんが今までに在宅医療で看取った患者は500人を超える。どの患者も病院より穏やかな最期を迎えているという。

(取材・文=稲川美穂子)

【連載】在宅緩和医療の第一人者が考える「理想の最期」

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