著者のコラム一覧
名郷直樹「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

医学的に正しい情報とは…「病態生理学的正しさ」と「疫学的正しさ」の違い

公開日: 更新日:

 それに対して、「血圧が高い人は正常の人に比べて、脳卒中心筋梗塞のリスクが2倍以上高い」との説明もできる。むろん、血圧が正常でも脳卒中や心筋梗塞になる人はいるし、高血圧でならない人もいる。集団として比べると血圧正常の集団で1%脳卒中が起きるときに、高血圧の集団では2%以上起きるということである。ただ、この説明は個別の患者にはわかりにくい面がある。目の前にいるその個人は、高血圧だとしても脳卒中や心筋梗塞にならないかもしれないし、正常血圧だとしても合併症を起こすかもしれない。これを疫学的説明と呼ぶ。高血圧で脳卒中や心筋梗塞を起こした人に対しては、病態生理学的説明の方が腑に落ちやすいだろう。疫学的説明をしても、「高血圧でない人がいるのになぜ私はこんなことになったのだ」という疑問を抱くのが普通かもしれない。その反対に高血圧を放置しても元気な人に対して、前者の病態生理学的説明は理解しがたい。

 それに対して、後者の疫学的説明の方は、高血圧でも何ともない人がいるという説明に合致し、納得できる面がある。個別に起こることに対して、現在の医学は一貫した説明手段を持っていない。状況に応じて、納得が得られやすい説明があるに過ぎない。個別の条件がより個別化すればするほど、一貫した説明は困難になる。「正しい情報」といっても、この病態生理学的説明と疫学的説明のような矛盾がある。医学的な説明に限っても「正しさ」が複雑なのだ。さらに現実の判断の場では、医学的な正しさだけでは判断できない。さらに別の「正しさ」を検討する必要がある。社会学的、人類学的、倫理学的、経済学的、政治学的、哲学的な正しさ、それぞれの正しさがある。

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    佐々木朗希「スライダー頼み」に限界迫る…ドジャースが見込んだフォークと速球は使い物にならず

  2. 2

    永野芽郁「キャスター」視聴率2ケタ陥落危機、炎上はTBSへ飛び火…韓国人俳優も主演もとんだトバッチリ

  3. 3

    「たばこ吸ってもいいですか」…新規大会主催者・前澤友作氏に問い合わせて一喝された国内男子ツアーの時代錯誤

  4. 4

    風そよぐ三浦半島 海辺散歩で「釣る」「食べる」「買う」

  5. 5

    広島・大瀬良は仰天「教えていいって言ってない!」…巨人・戸郷との“球種交換”まさかの顛末

  1. 6

    広島新井監督を悩ます小園海斗のジレンマ…打撃がいいから外せない。でも守るところがない

  2. 7

    インドの高校生3人組が電気不要の冷蔵庫を発明! 世界的な環境賞受賞の快挙

  3. 8

    令和ロマンくるまは契約解除、ダウンタウンは配信開始…吉本興業の“二枚舌”に批判殺到

  4. 9

    “マジシャン”佐々木朗希がド軍ナインから見放される日…「自己チュー」再発には要注意

  5. 10

    永野芽郁「二股不倫」報道でも活動自粛&会見なし“強行突破”作戦の行方…カギを握るのは外資企業か