ギランバレー症候群と闘う俳優の佐藤和久さん「意思表示が何もできなかった」

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自分に起きたことは素直に受け入れると楽になる

 目が開いたのは3カ月後です。真っ暗な世界からようやく脱出しました。その後、手の指1本動かすためにどれだけ意識を集中したことか。たとえるなら、目の前のコップを念力で動かそうとするようなものです。だからどこかが少しでも動くようになるたびに、心の中は狂喜乱舞。その頃は楽しくて仕方がありませんでした。

 でも、11カ月がたって退院間近となっても、まだベッドから満足に起き上がることができませんでした。肺活量も一般成人男性の3分の1。思い切り息を吹いてもティッシュ1枚がかすかに揺らぐ程度。「呼吸器をつけたまま退院してください」と言われたくらいです。それだけは頑として拒否しましたけどね。病院側では、これ以上良くならないことも想定していたようです。

 それが、週3回、リハビリの先生に訪問してもらって、退院から5カ月目には立ち上がり、支えがあれば歩けるまでになりました。食べられるようになり、自由に話せるようになり、できることが増えている間はよかった。

 でも、退院から2年目で頭打ちになりました。病気を悲観したことはあまりないのですが、「こんなにやっているのに!」というフラストレーションがたまったその時期が一番きつかったです。

 今はこうしてひとりで外を歩けるようになりました。両脚にしびれが残っていますが、ゆっくりなら階段の上り下りもできます。杖は人混みや電車に乗るときなどに危ないので持ち歩いていますけど、家では使いません。食事も流動食から普通食になって1人前を平らげます。初めて牛丼の肉の切れ端をのみ込めたときはうれしくて、調子に乗って後日焼き肉を食べに行ったら、急激な油摂取で消化が追い付かず1週間入院しましたけどね(笑)。

 これまでは、以前の自分に戻ることを考えていましたが、今年から「今できることを思い切りするにはどうするか?」というふうに考えを変えました。スタミナをつけるために、なるべく外に出ることを意識して、人と会っていろんな刺激をもらうようにしています。

 2月に知り合いの劇団の舞台オーディションを受けたのも、その“一歩”でした。杖をついたおじいさん役があったのでダメモトで受けたら、なんと出演がかなって、5月には4年ぶりに舞台に立ちました。小さい劇場でしたけど、お客さんの前に立ったときの興奮は、そりゃもう言葉にならない。もっとやりたいと思いましたね。

 自分に起きたことは素直に受け入れると楽になると、病気を通して学びました。どうにもならないことでイライラするのが一番良くない。ただ、やり続ければ進歩することも実体験しました。目に見えないかすかな前進でも、やれば必ずある。その先にできることを発見できたらうれしいじゃないですか。

 去年の年末からジョギングの形をしたウオーキングを始めました。重心を足の指に乗せて歩く歩き方です。指先で地面を蹴る感覚が戻ってくるといいんですけどね。

(聞き手=松永詠美子)

▽佐藤和久(さとう・かずひさ)1971年、岩手県出身。16歳からJAC(ジャパンアクションクラブ)で演技を学び、舞台を中心に活躍。アクション俳優として映画やテレビにも出演。現在はFM HOT839(エフエムさがみ)のレギュラー番組「SUGAR HOUSE(旧・佐藤和久のテイクハートタイム)」などに出演中。8月8日(金)には歌ライブ「7月4日にたおれてvol.2」が「ライブレストラン&バーSOKEHS ROCK」(東京・新宿)で予定されている。

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