元文化放送アナウンサー梶原しげるさん 古希をすぎて「奥さんが好きすぎる」ってどういう感情?

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 結婚生活40年をすぎて梶原さんは血迷ってしまったのか? 妻が好きすぎてたまらないのだという。「愛おしさレベル」は今がピーク(今後も増える見込み)で、年を経た今の妻が「一番きれい」とキッパリ。だが、ただのノロケではない。話を聞き終えた頃には記者の心も温かくなった。
(取材・文=加藤広栄/日刊ゲンダイ)

  ◇  ◇  ◇

■結婚生活40年以上の間には険悪な時期も

 おしどり夫婦と呼ばれてずっと仲の良い夫婦はいるが、梶原さんは「険悪な時期もあった」と隠さない。夫婦で初めて購入した「東陽町駅」徒歩2分のマンション。近くの公園の砂場で長女が初めて立ち上がった時のことを昨日のように覚えていると言うが、フリーに転身して仕事が順調に回るようになると、そんな日常の喜びに気付けなくなっていった。

 梶原さんも多くの夫たちのように、「オレは家族のためにがんばっているんだ」とベクトルを間違っていたようだ。

「ある瞬間、自分でも不思議なのですが、『妻がどんどん好きになる』という気持ちが降ってきたのです。私たち夫婦は外を歩く時、しっかり手をつなぐのですが、小さく、やわらかい彼女の手を握りながら、のどかな春の日和に『もう桜が散ったね』なんて言い合いながら散歩します。手をつなぐと心もつながるなんて言いますが、彼女が街行く若い人の颯爽としたファッションに目を輝かせたり、ショーウインドーから見える新しいバッグに目を留めたりする様子が、その手から伝わってくるのです」

 シニア夫婦が今更手をつなぐのには抵抗があるが、梶原さん夫婦には手をつなぐ理由がある。40代の頃に奥さんが小脳の病気である「アーノルド・キアリ症候群」を発症。大手術と2カ月に及ぶ入院を経験したが、徐々に歩行障害などが出てきたのだ。

「若い頃の妻は、それこそ背筋がピンと伸びてハイヒールが似合う女性でした。その彼女が病気の後遺症のせいか、時折、足元がおぼつかなくなる。最初の頃は愛情というより、『かわいそう』といった感情だったかもしれません。人ってこんなことになっちゃうんだ……と。今は片方の手が不自由ですし、側弯(背骨の曲がり)が進むにつれて布団の上げ下げなど、これまで普通にやれてきたことがやれなくなってきています。でも、彼女は愚痴めいたことは決して口にしません。それは彼女なりのプライドなのか、それとも愚痴を言ったら負けとでも思っているのか、私はそんな彼女の芯の強さに触れ、『かわいそう』から『すごい人だなあ』に意識が変わりました」

 もちろん、彼女の性格が急に変わったわけではないだろう。元から彼女はそういう性格であり、「すごい」と思ったのは梶原さんが変わったからだ。若い頃は彼女の良さに気付けなかっただけかもしれない。

「妻に代わって棚のお塩を取り、私が『そういえば醤油も切れてたよね』と言うと、『しげるさんはお醤油を使いすぎるから。塩分を控えないとね』なんて会話する。助け合いやコミュニケーションが生まれます。また妻のために伸びる素材の靴を探し、ある量販靴店で見つけて何足も買いだめしています。年を取れば誰しも不自由なことは増えますが、不自由さだって案外悪いことばかりではありませんよね」

■笑顔が標準だった彼女に笑顔が消えた

 そもそも出会った頃は相手の「いいところ」しか見えなかった。それが夫婦生活も長くなると、最初の気持ちがだんだん薄れ、マイナス面ばかりが目につくようになる。梶原さんも奥さんと付き合っていた頃の記憶は今も鮮明で、門前仲町での食事デートや、浅草の神谷バーで電気ブランを飲んだこともハッキリと覚えている。

「結婚した当時、彼女は青山や外苑前の大通りを颯爽と歩いていたイメージでした。そして最も好きになったのは彼女の笑顔でした。笑っている顔が標準で、しかも爽やかないい笑顔だった。私のつまらない話もゲラゲラ笑いながら聞いてくれてたものです。そんな彼女から笑顔が消えた時がありました。妻は当時としては珍しく、妊娠しても仕事を辞めず、妻いわくその会社の『産休第1号』だそうです。結局、子育てのために専業主婦になりましたが、今にして思えば産休を取るほど仕事にやりがいを感じていたということ。それなのに私はまったくと言っていいほど家事にも子育てにも協力的ではありませんでした」

 ほとんどのサラリーマンが大なり小なり同じ引け目を感じているに違いない。お金を稼ぐことを優先してきたが、妻の側は娘が砂場で立ち上がったことを一緒になって喜ぶ家庭を望んでいたりするものだ。

褒め言葉を恥ずかしがらずに言う

 では、梶原さんのように「妻がどんどん好きになる」にはどうしたらいいのか。

「私が今やっていることは、妻への称賛の言葉を恥ずかしがらずに口にすることです。最初はしらじらしいといって嫌がられると思っていましたが、妻は『あら、うれしい』と素直に受け止めてくれました。私が言うのも変ですが、妻は褒めるポイントがたくさんあって、『今日のブラウスは似合うねえ』と褒めているうちにどんどん妻が好きになっていく。そして妻のことは『まりちゃん』と呼んでいます。結婚当初は『まり子さん』、子供が生まれてからは『ママ』、そして今は『まりちゃ~ん』。まりちゃんには『好きだよ』と意味も込められています。私が思うに、『妻より若くてきれいな女性がいい』と本気で思うようなおじさんはごく少数派ではないでしょうか。苦楽を共にした歴史は何物にも代えられないでしょう」

 梶原さんの言葉は止まらない。

「私ら世代は子育てと介護を終え、ようやく夫婦で楽しもうという時期に差し掛かっています。クルーズ船で海外を旅行してみたいとか、やりたいことはたくさんありますが、妻の体の調子のこともありますし、それは徐々にできたらいい。それよりも食器を洗ってみたり、妻に履きやすい靴を見つけてやって目をキラキラさせてみたりしたい。『具合、悪くない?(私)』『大丈夫よ(妻)』……こんな脈絡のない会話をずっと続けられたらそれでいいですね」

 どんどん好きになるというより、実はずっと前から好き。忘れていたことを思い出すだけで、夫婦仲は良くなるのかもしれない。

▽梶原しげる(かじわら・しげる) 1950年、神奈川県茅ケ崎市出身。元文化放送アナウンサー。東京成徳大学客員教授、日本語検定審議委員。新著「妻がどんどん好きになる」(光文社)を出版。

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