精神科医・和田秀樹さんが「80歳を越えたら我慢しないで生きよう」と唱える理由
<80歳になったら、我慢しないでしたいことしよう>というのが老年精神医学の第一人者、和田秀樹さんの考えだ。高齢者の人生の過ごし方について話を聞いた。
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80歳になると要介護者や認知症が急に増えるそうだ。80歳には「壁」があるのだ。その壁の乗り越え方を提案した「80歳の壁」が35万部(6月初旬現在)のベストセラーになっている。和田さんはこの現象をどのように分析しているのか。
「80歳向けの本をようやく出すことができました。この本には伏線があって、『70歳が老化の分かれ道』という本が25万部以上売れたので、『80歳』が出せた。その前には60歳向けの本を出したんですが、あまり売れなかった。ぼくは62歳だけど、ちょっと上が『POPEYE』世代で、ぼくは『HotDog』世代。読書世代ではないんですね。だけどいま72歳から75歳くらいの団塊の世代って20代で『資本論』とかショーペンハウアーら哲学も読んできている。60代より70代の人の方が本を読むんです。
■70代は自分を高齢者だと思っていない
さらに驚いたのは、発売当初でAmazonで1位になり、Kindleでも1位になったこと。そして『70歳が老化の分かれ道』が郊外型書店で売れたことです。今の70代や80代って、ネットで本を買い、電子書籍を読み、郊外型書店に自ら車を運転して買いに行く生活になっている。70歳の高齢者は自分は高齢者じゃないよって思っていたりします。高齢者から運転免許を取り上げてどうするんですか。ぼくがトヨタの社長なら怒りますよ」
マーケティングと高齢者のニーズにズレがある。
「マスメディアの人や商品開発の人が気づかない中で、ライフスタイルが変化してきている。これまで80歳というとブルーカラーや農家の人、早寝早起きというイメージが強かった。だけど今の80代ってほぼホワイトカラー。これまでのような早寝早起きではなく深夜番組も大好きだったり、銀座で飲んでいたような人たちが老化している」
このため和田さんも困っていることがあるそうだ。
「ぼくは高齢者に<動こう><脳を使おう>と常々言っているわけですが、実際のところ高齢者が遊べる場所がないんです。高齢者大歓迎のキャバクラもホストクラブもないでしょ。大切な性ホルモンを出すためにはいつまでも男でいたい、女でいたいという気持ちでいたほうがいいんです。世代が違う人と話せば認知症と関係の深い前頭葉も使うしね。ジャパネットが30万円くらいで豪華クルーズを始めたけど、高齢初心者も楽しめるセンスは的を射ていますね」