がん患者の退院後の“自宅治療食”を開発…最大の特徴「凍結含浸法」とは

公開日: 更新日:

凍結含浸法で見た目はそのまま、柔らかく仕上げ、栄養価も好評

「広島県立総合技術研究所食品工業技術センターが2002年に開発した加工技術です。食材を凍らせ、解凍すると細胞の壁が壊れて食材の中に隙間ができます。そこにタンパク質分解酵素と食物繊維分解酵素を含む酵素液を含浸させ、真空状態にすることで、酵素を食材の隅々にまで行き渡らせるのです。この状態で加熱処理をすると、酵素の働きで食材が柔らかくなります。凍結含浸法を使えば、見た目はそのままに、舌でつぶせるほど柔らかい食事を作ることができるんです」

 管理栄養士の視点から、栄養価にも相当こだわっている。

「1食あたり250キロカロリー以上、タンパク質は12グラム以上と定めています。栄養状態は予後にかかわりますので、必要な栄養素がしっかり取れることが大事なのです」

 商品開発の際には、胃を切除した人の患者会の代表を務める外科医の監修を受け、患者100人以上の声も反映させたという。その道のりは平坦ではなかった。

「ゼロからのスタートでしたから、何もかも手探り。食べてもらえる患者さんを一人一人探しては試食をお願いし、医師や看護師、栄養士、介護に携わるような方々にも地道に営業して協力を仰ぎました」

 それでも、患者たちの喜びの声が大久保さんの背中を押した。

「胃切除後に下痢が続いていた患者さんが、これなら食べられると喜んでくれました。手術後、大好物だったサケが喉を通らなくなって食べられなくなったという方も、この商品なら食べられたそうです。患者さんに喜んでもらえるのが何よりの支えでしたね」

 一つ一つ課題を乗り越え、たどり着いたのが「食卓の名医」だ。2021年12月の発売以来、200以上の医療機関と300以上の介護施設、またネット通販を通じて全国の家庭の食卓を支えている。

「これからも、より多くのがんサバイバーに届けていきたい」と大久保さんは熱く語る。

 療養食が変われば、がんとの向き合い方も変わる。そんな思いが「食卓の名医」には込められているが、そもそも大久保さんは大学病院の管理栄養士だった。なぜ民間企業で商品開発に携わることになったのか。そこには、がん患者に対する思いがあった。=後編につづく

(取材・文=いからしひろき)

▽大久保あさ美(おおくぼ・あさみ) 2014年、東京大学医学部付属病院の病態栄養治療部に入職。がん患者などの栄養指導に携わる。退院後の患者のフォローに限界を感じ、20年に西本Wismettac(ウィズメタック)ホールディングスに転職。22年、病態栄養専門管理栄養士の資格を取得。がん患者に寄り添った食事作りをめざしている。

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