著者のコラム一覧
山田一仁フォトジャーナリスト

1957年1月1日生まれ。岐阜県出身。千葉大工学部画像工学科卒業後、文藝春秋社に入社。フリーランスとして五輪はロス、ソウル、バルセロナ、シドニー、カルガリ、リレハンメルなど取材。サッカーW杯は1990年イタリア大会から、ユーロは1996年英国大会から取材。89年のベルリンの壁、ルーマニア革命、91年ソ連クーデター、93年ロシア内紛、95年チェチェン紛争など現地取材。英プレミアリーグの撮影ライセンスを日本人フリーランスカメラマンとして唯一保有。Jリーグ岐阜のオフィシャルカメラマンを務めている。

本田圭佑を追いブラジルへ…コロナがリオ市民を脅かしだす

公開日: 更新日:

やはり日本は危ない国と思われている

 世界を股にかけるフォトジャーナリストが3月、ブラジルとイングランドを飛び回りながら南米大陸、欧州で新型コロナウイルスが蔓延していく状況を<身をもって>実体験。その様子を時系列に沿ってリアルに緊急レポートする。

 ◇  ◇  ◇

▼3月7日 土曜日

 シンガポール航空に乗って関西空港を出発した私は、ロンドン経由でブラジルに向かった。

 今回のブラジル行きの目的は、強豪ボタフォゴに移籍した元日本代表MF本田圭祐選手を取材すること。あと元日本代表DF三都主アレサンドロさんが関わっているチームに中古のスパイクを寄付すること。さらに帰国前に貸倉庫代金を支払うためにロンドンに立ち寄ること(ロンドンを拠点にして仕事をしていたが、父親が認知症で要介護となったので日本で過ごす時間が多くなり、アパートを解約して荷物を貸倉庫に預けてあった)。

 往路は、日本からロンドン経由でブラジル・サンパウロ入り。復路はブラジル・リオデジャネイロから出国。往路と復路の片道チケットを別々に買い求めるという複雑な旅程なのでシンガポール航空のサイトから購入。変更などの手続きがしやすいからである(このことで後に大いに助けられるとはそのときは夢にも思わなかった)。

 関空からシンガポールまでは、キャビンアテンダント全員がマスクを着用していた。ところがシンガポールからロンドンまでの行程では、誰もマスクを着けていなかった。ロンドンからポルトガル航空に乗り換え。イギリス入国時に配られた新型コロナ関連のチラシには「以下の国に過去14日間滞在して咳、熱、呼吸に問題がある場合は室内に留まり、NHS111に電話すること」とあった。その対象国に中国韓国、あと東南アジア諸国とともに日本も記されていた。やはり日本は<新型コロナで危ない国>と思われているのだ。

▼3月9日 月曜日

 リスボンを経由して朝にサンパウロに到着。三都主さんの生まれ故郷で関わっているチームのあるパラナ州マリンガに飛ぶ予定だったが、本田圭祐選手が3月10日のブラジルカップ戦に出場予定との情報が入り、サンパウロからリオまで夜行バスで移動することにした。

 10日朝にリオ着。本田選手は体調を崩してベンチ外だったので11日の夜行バスに乗り、12日の朝にマリンガに到着した。この日を境にブラジルの新型コロナ事情が激変した。

 ブラジルの新型コロナの初感染者は、2月26日にイタリア北部の出張からサンパウロに帰国した男性だ。それから2週間後、ボルソナーロ大統領側近の感染が発覚した。

 ついにテレビなどが一斉に新型コロナ問題を報じるようになった。

 イギリスのジョンソン首相が「感染を抑え込む時期は過ぎた。これからは感染のピークをいかに遅らせるか、いかに医療崩壊を防ぐか、にかかっている」とアナウンス。欧州各国の政府が次々と声明を発表した。

▼3月14日 土曜日

 フランスが生活必需品以外の全店を休業。スペインが非常事態宣言を発し、不要不急の外出を禁止した。アメリカのトランプ大統領も非常事態を宣言した。しかし……、

 滞在していたマリンガでは、まだ通常の生活が営まれていた。

 この日は朝早くに出掛け、三都主さんの関わっているアカデミーチームやUー17(17以下)など年代別の3チームの試合を撮影し、夕方には盛大に行われていた市民のサッカー大会を撮影した。

▼3月15日 日曜日

 マリンガ発の夜行バスに乗って3月15日朝、リオに到着した。リオ州選手権のボタフォゴーバングー戦で本田選手がデビューするはずだ。

 スタジアムに到着したバスから本田選手がサングラス姿で降りてきた。試合前のアップでもレギュラー組。「いよいよ彼のプレーがブラジルで撮れるぞ!」。大きな期待で胸いっぱいになった私は、ピッチに出てくる本田選手を狙って最前列に陣取った。

 この日は新型コロナの影響で無観客試合。ボタフォゴの選手全員が入場してきた。

選手全員がマスク姿

 私は唖然としてしまった。選手全員がマスク姿! もちろん本田選手も大きなマスクして神妙な顔。

「まさか……マスクをしたままプレーするんじゃないだろうな?」

 ボタフォゴの選手たちは「みんなで一緒にコロナに立ち向かおう!」という意味のバナーを持って整列。その後、選手たちは、さすがにマスクを外して試合に臨んだ。

 そもそも本田選手と私は<縁>がある。

 2008年に名古屋グランパスからオランダのVVVフェンロに移籍した際、ちょうどドイツに滞在していた私はオランダに入り、入団会見と初試合を取材した。

 2010年にCSKAモスクワに移籍。90年代にロシアの変革を取材して特派員ビザを取得していた私は、ロシアにすんなりと入国できたので彼のデビュー戦・デビューゴールをカメラに収めることができた。さらにミランでのデビュー戦(14年1月)も現場にいたし、本田選手の海外クラブデビュー戦を撮影するのは4回目である。

 彼はチームのエースストライカー・背番号9の選手が獲得したPKを決め、デビュー戦の初ゴールを飾ったオマケつき。強運の持ち主である本田選手にあやかるわけではないが、私もなかなかの強運の持ち主かも知れない。

▼3月16日 月曜日

 リオ市内のスーパーで食料品を買おうと高級住宅街イパネマの通りを歩いていると人だかり。

 帰りに再び同じ場所を通ると入口の係と客が言い争っている。

 よく見ると「KINDER VACINAS」の看板が掛かっている。確か「KINDER」はキンダーガーデンの「キンダー」。ドイツ語の子どもという意味だ。でも、その隣の「VACINAS」の意味は?

 ヴァシナス? ヴァチナス? ポルトガル語で何という意味なのだろうか? 周りに集まっている人のほとんどは女性である。中には小さな子供を抱いている人もいれば、老人もいる。

 ひょっとして子ども用ワクチンのことか? 並んでいる女性の一人に英語で尋ねてみた。

「これは新型コロナの問題でワクチンを受けようとしているのですか?」

 即座に「その通りよ!」という返事。

 新型コロナのワクチンは完成していないはずだから……インフルエンザのワクチンでも受けようというのだろうか? とにもかくにもリオ市民の新型コロナウイルスに対する意識が、1週間ちょっとで大きく変わり始めた。=つづく

【写真ギャラリー】小池都知事【緊急事態宣言】に向け緊急記者会見

【連載】コロナ禍のサッカー大国を駆け抜け

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