野村監督が選手を褒めないのは「出来て当たり前」だから
監督から直接、顔と顔を合わせて褒められた選手なんて、当時のヤクルトにいたのかどうか。監督の中では、こと野球においては何事も、「出来て当然」なんです。当たり前のことを当たり前にやっただけだから褒めない。その代わり、失敗すると「何で出来なかったんだ。何を考えていたんだ」と理由を求める。
「あの場面ではこう考えていました」
「いや、それは違うぞ」
■日付が変わっても消えない明かり
そんなやりとりを何度も繰り返しました。褒められる、なんてことは最初から頭にありませんでした。それでも翌日の新聞で「飯田のあのプレーがあったから勝てた」なんてコメントを見ると、うれしいというか、ああ、ちゃんと認められているんだ、良かった……と安堵しましたね。
そんな野村監督の厳しさは、常に勝利を目指しているからです。
負けると不機嫌そのもの。遠征中、負けて宿舎に帰るまでのバスの中などは、もうお通夜です。監督の顔色をうかがい、誰も口を開きません。せいぜい隣の選手に耳打ちするようにひそひそとしゃべるだけ。バスを降りるとき、ようやく重苦しい緊張感が少し解け、「やっとか……」と安堵したものです。