古田敦也が内角打ちの名人になった貪欲な「聞き取り力」
「ギャンブルはしない」という野村克也監督のサインを無視した三塁走者・古田敦也のギャンブルスタートが功を奏し、貴重な追加点を奪ったヤクルトは、1993年の日本シリーズで15年ぶりの日本一に輝いた。
それにしても古田はよく突っ込んだ。新人時代からずうずうしいというか、貪欲なところがあった。
「打撃に目をつぶれば守備はいい」という触れ込みで、89年のドラフト2位で入ってきた。その頃の正捕手は私だった。ポジションが同じでロッカーが前だったこともあり、よく話をした。すると、新人はいきなりこう問い掛けてきた。
「秦さんはインコースをうまく打ちますけど、どうやって打ったらいいんですかね?」
普通は引きずり降ろしたい相手からは聞きにくいものだ。しかし、貪欲な古田はそんなことはお構いなしだ。
「まずバットを体の内側から出すことだよな。落合(博満)さんは、体の正面から向かってくるボールを打つ練習とか、長尺バットを使って振っているみたいだな」
すると、「なるほど」と言ってすぐに取り入れる柔軟性があった。気になったことがあると、あちこち聞いて回り、技を盗む。「聞き取り力」があった。2年目の91年には打率・340で首位打者を獲得。当初、自信がなかったという打撃はプロに入って急激に伸びたクチで、野村克也監督も驚くほどだった。