地に堕ちた五輪の「権威と価値」高梨スーツ問題、中国びいきの判定…ゴタゴタてんこ盛り

公開日: 更新日:

 今度はフィギュアに火の粉が降りかかった。

 9日、8日夜に予定されていたフィギュア団体のメダル授与式中止を巡って、五輪専門メディアは金メダルを獲得したロシア・オリンピック委員会(ROC)にドーピング疑惑が浮上したと報道。ロシア人コーチが「ありえない」と完全否定をするなど、大騒ぎになっている。

 今回の北京五輪ほど、ギスギスした大会はない。競技そのものよりもむしろ、審判やルールに関する多くの問題が浮上。勝ち負けを巡るゴタゴタばかりが目立っている。

 スキージャンプの混合団体で高梨沙羅(25)がスーツの規定違反により失格。この試合では高梨だけでなく、ドイツのアルトハウスら5人もの女子選手の失格者を出し、判定が厳しすぎるとの声が噴出した。

 独メディアによれば、失格したアルトハウスは「過去に経験したことがないほど長時間、上から下までくまなくチェックされた。何か見つかるまで検査が続くような感じだった」と話したという。

 8日のスノーボード女子パラレル大回転では、2014年ソチ五輪銀メダルの竹内智香(38)が決勝トーナメント1回戦で転倒した際、ドイツ選手を妨害したとして途中棄権扱いとなり敗退。審判8人中6人がドイツ人だったこともあり、竹内は「このジャッジは欧州スポーツの力を感じる。スポーツマンシップって何なんだろうって感じますが、これも五輪独特の力だと思う」と発言し、波紋を呼んだ。

メダル巡る巨額のカネ

 スポーツライターの小林信也氏の話。

「ジャンプのスーツは本来、選手がより飛びやすいように、ということが前提にありました。統一したウエアがあればこのような問題は起こらないのですが、今は用具メーカーによる激しい競争、国ごとの勝ち負けが熾烈で、実現はしそうにない。スポーツは本来アバウトな部分があるものなのに、勝ち負けだけがすべてのゴールになっている。メダルを巡って巨額のおカネが動くため、メダル勝負に重きが置かれ過ぎて、非常にギスギスしてしまっていると感じます」

中国びいきの判定

 7日のショートトラック男子1000メートルでは試合のたびに失格者が続出。最終的に中国選手が金、銀メダルを獲得した。韓国は準決勝で中国選手と接触したとして、2選手が失格。「中国びいきの判定だ」と激怒した韓国選手団がスポーツ仲裁裁判所(CAS)に提訴することを決定。混合リレー準決勝でも2位だったはずの米国が中国の進路を妨害したとして失格に。中国が繰り上げで決勝に進み、米USAトゥデー紙は「ショートトラックほどカオスに満ちた競技はない」と報じた。

■競技退廃の象徴

 スポーツジャーナリストの谷口源太郎氏が言う。

「中国びいきのジャッジには意図的なものを感じざるを得ないのと同時に、これまで他国が中国に抱いてきた批判、反感が一気に噴出しているように映ります。そもそもショートトラックは五輪競技の退廃の象徴だと思う。IOCが若年層への関心を引くため、採用競技に面白さ、スリリングさを求めた結果、勝ち負けに特化した見せ物でしかない。失格するかしないかが話題の中心となり、選手と審判のゴタゴタは勝利至上主義の末路といっていい。ジャンプなども含めて勝つためには手段を選ばない選手と、不正をチェックするために躍起になる審判。スポーツに本来あるべき倫理観は失われ、スポーツを殺している。五輪が生み出す最大の負の遺産が北京大会で一層、鮮明になっています」

 しかも開催国の中国は外国人部隊を結成してメダル稼ぎに躍起。同国メディアによると、「アイスホッケー男女代表48人中28人が帰化選手」という。8日にはフリースタイルスキーの女子ビッグエアで、米国出身の谷愛凌(18)が金メダルを獲得。中国と政治的に対立する欧米のメディアからは、谷が中国籍を取ったことに批判的な声も出ている。

 その話で言えば、今回ほど政治介入が甚だしい五輪はない。米中対立を背景にした「外交的ボイコット」に始まり、中国によるチベット、ウイグル人への人権侵害が問題視される中、開会式では最終聖火ランナーにウイグル族の選手を起用したことで欧米メディアを中心に批判を展開。USAトゥデーでは、ウイグルでの人権問題を告発する米国の弁護士が「ジェノサイド(大量殺戮)のゴマカシだ」とブチ上げている。

■バッハ会長の政治パフォーマンス

 しかし、政治的独立を訴えるIOCのトップ・バッハ会長はむしろ、「政治」のことしか頭にないように映る。その象徴が、中国共産党幹部に性的暴行を受けたと告発、一時的に消息不明となったテニス選手の彭帥とのベッタリである。

 この件を巡って中国は世界中から批判を浴びているが、バッハ会長は五輪前に彭帥と電話会談をするだけでなく、大会期間中にスキー競技などを一緒に観戦した。

 前出の谷口氏が、「1980年モスクワ大会での東西冷戦下の西側諸国によるボイコットに始まり、五輪は政治利用され続けているが、今回は露骨にこれを示しています。バッハ会長も政治的パフォーマンスしか頭にないのでしょう。東京五輪広島を訪問したのと同じ構図です。あわよくばノーベル平和賞が欲しいだけに、話題に意図的に乗りかかって中国に貸しをつくったくらいに思っているのではないか。もともと弁護士であり、自分がどうすれば評価されるか考える、非常に計算高い人物ですから」と言えば、前出の小林氏は「中国とIOCはお互いがうまく利用し合っている印象。IOCは大会ができさえすればいいし、中国は『(五輪を)世界が期待している』と国際的な支持を訴えることができますから」と指摘する。

 過剰なメダル至上主義によるインチキ、政治的思惑にまみれた五輪にもはや価値はない。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    安青錦の大関昇進めぐり「賛成」「反対」真っ二つ…苦手の横綱・大の里に善戦したと思いきや

  2. 2

    横綱・大の里まさかの千秋楽負傷休場に角界から非難の嵐…八角理事長は「遺憾」、舞の海氏も「私なら出場」

  3. 3

    2026年大学入試はどうなる? 注目は公立の長野大と福井県立大、私立は立教大学環境学部

  4. 4

    東山紀之「芸能界復帰」へカウントダウン着々…近影ショットを布石に、スマイル社社長業務の終了発表か

  5. 5

    「総理に失礼だ!」と小池都知事が大炎上…高市首相“45度お辞儀”に“5度の会釈”で対応したワケ

  1. 6

    大関取り安青錦の出世街道に立ちはだかる「体重のカベ」…幕内の平均体重より-10kg

  2. 7

    日中対立激化招いた高市外交に漂う“食傷ムード”…海外の有力メディアから懸念や皮肉が続々と

  3. 8

    義ノ富士が速攻相撲で横綱・大の里から金星! 学生相撲時代のライバルに送った痛烈メッセージ

  4. 9

    同じマンションで生活を…海老蔵&米倉涼子に復縁の可能性

  5. 10

    独立に成功した「新しい地図」3人を待つ課題…“事務所を出ない”理由を明かした木村拓哉の選択