ワリエワ騒動で浮き彫り ロシアの狂気的アスリート育成の実態…背景に「頭より筋肉」の思想

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 生まれた国が悪かったのか……。

 フィギュアスケート女子シングルで4位に終わったカミラ・ワリエワ(15、ROC=ロシア・オリンピック委員会)のドーピング騒動に揺れるフィギュア界。国際スケート連盟(ISU)では、五輪などシニア大会における出場年齢制限を15歳から17歳へ引き上げることが再検討され始めた。

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■ドーピング騒動で改めて浮き彫り

 ロシアフィギュア界では2008年にエテリ・トゥトベリゼコーチが就任。彼女の教え子がフィギュア界を席巻しはじめてからというもの、選手の低年齢化と「使い捨て」が目立つ。14年ソチ五輪団体金に貢献したリプニツカヤ(23)は当時15歳。4年後の平昌五輪でも活躍が期待されたが、摂食障害で現役を退いた。その平昌で15歳で金メダルを獲得したザギトワ(19)も銀のメドベージェワ(22)も、五輪出場は1度だけだ。ジュニア世代を含めて選手層の厚さはあるにせよ、今回のワリエワ騒動を発端にロシア選手の消耗の激しさなど、過酷な実態が改めて露呈した。

 何より今回、14年ソチ五輪で組織的なドーピング違反が発覚してもなお、15歳の少女が“クスリ漬け”にされているという事実に世界は衝撃を受けたわけだが、ロシアがそこまでスポーツに入れ込む根底はどこにあるのか。

 ロシア情勢に詳しい筑波大の中村逸郎教授はこう言う。

■体格による優劣の順番で並ぶ歴史が…

「組織的ドーピングの始まりは、リーマン・ショックの影響で海外から招聘していた有能なコーチがロシアから去ったことが大きな原因ですが、そもそもロシアという国は『頭より筋肉』を重視する傾向がある。体の大きさが強さの象徴で、大統領も身長の高さで選ぶという噂すらあります。ロシアには歴代大統領を『背の順』に並べたポスターがありますからね。軍隊でも最前列は最も身長の高い人が壁のようになって行進する。見栄えの良い人から並ぶというのが伝統なのです」

 日本における「背の順」はかつて「前が見えやすいように」という配慮から身長の低い順に並ぶことが一般的だった。しかし、ロシアは体格による優劣の順番で並ぶ歴史がある。そのせいか、ロシアは日本のような学歴社会ではないという。

「いわゆる『頭の良さ』は、日本ほど評価されない国です。ほとんどのロシア人は学歴に関心がありません。日本で『先生』と呼ばれる医者、弁護士、教員はロシアでは三大貧困層。大学教員に至っては、高校生の家庭教師のアルバイトをしているほど。1回で100ドルほどのバイト代をもらえるので、本業よりもよっぽど割がいいのです。同じ大学でも、科学アカデミーの教授などは、政府の政策立案に関わる仕事をするため、給料が高い。ロシアで高給取りといわれる職業は銀行員、政治家や天然資源関係企業など、いずれも政府と仕事をする職業ばかりです」(中村氏)

子供がステロイドで痛みを和らげる異常

 頭より運動能力という思想は、学校教育にも影を落とす。モスクワ市内だけで10校あるトップアスリート養成学校では、行き過ぎた英才教育が問題視されている。

「ワリエワ選手らが通っているモスクワ市内の『サンボ70』は一番の名門校として知られ、生徒数は約1万6000人。26種目の競技を網羅して指導している学校です。6歳から入ることができ、多くの子が親元から離れて寮生活を送る。早朝から国語や算数などの一般的な授業を受けた後、昼までの2時間、競技の練習をする。その後、再び授業を受け、また2時間の練習……というのを繰り返す。生徒が寮や自宅に帰れるのは早くても21時。ハードスケジュールのため、多くの生徒が授業中に寝ているそうで、睡眠時間も少ないため脳への悪影響も心配されています。スポーツと学業の両立をめぐって、トレーナーと教員の間でモメることもしばしば。『サンボ70』ではトゥトベリゼコーチが来てから食事制限にますます拍車がかかり、筋肉をつけずにジャンプを跳ぶため、多くのスケーターが背骨に負担をかけ、傷める弊害も出ている。若くしてステロイドなどの薬を使って痛みを和らげているというのは異常です」(中村氏)

 メドベージェワは22歳の若さで背中の故障に悩まされ、フリップやルッツが跳べなくなり、引退を余儀なくされた。

 ワリエワが15歳の若さで“クスリ漬け”になっているのが「ロシアのスタンダード」なのだとしたら、常軌を逸している。

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