著者のコラム一覧
Ricardo Setyonジャーナリスト

リカルド・セティオン 1963年生まれ。サンパウロ出身。中東戦争やユーゴスラビア紛争などを現地取材。スポーツジャーナリストに転身し、8カ国語を操りながらブラジルメディア以外にも英「ワールドサッカー」、伊「グエリン・スポルティーボ」など幅広く執筆。BBCのラジオ番組にも出演。98年、02年のW杯期間中にブラジル代表付き広報を務めた。現在もジーコ、ロナウド、ロナウジーニョ、カフー、ドゥンガら大物との親交も厚い。13年コンフェデレーションズカップではFIFA審判団の広報。国内では「ワールドサッカーダイジェスト」「スポルティーバ」などでコラムを執筆中。ブラジルのマッケンジー大、パナマのパナマ大、イスラエルのハイファ大などでスポーツマネージメントの講義を行う。自他ともに認める「サッカークレージー」。

嘆くメダリストたち クオリティーに疑問の声「まるで戦争に行って帰ってきたかのような…」

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大会中に史上最多の9つのプロポーズが

 パリ2024組織委員会のエスタンゲ会長は、大会中に史上最多の7つのプロポーズがあったと選手村で自慢した。例えばアルゼンチンのハンドボール選手シモネトは開会式の集合写真を撮る際に、同じアルゼンチンのホッケー選手カンポイの前にひざまずいて指輪を渡した。女子3000メートル障害で4位に入ったフランスのフィノは競技後、観客席で声援を送っていた恋人の元に走り、プロポーズした。「私たちは9年間一緒にいたから、9分を切ったらプロポーズしようと思った」と言った。バドミントンの混合ダブルスで金メダルを獲得した中国のファンも、表彰式後に男子ダブルスのリュウからプロポーズを受けている。

 一方、実生活では数週間前に破局していたチェコのテニス混合ダブルスペア、シニアコバとマチャックは金メダル獲得後にキスを交わした。これを機に復縁するのではって、噂になっている。

 パラグアイの水泳選手アロンソは、モデルもやっているインフルエンサー。そんな彼女は大会中に許可なくディズニーランドに行ったこと、チームジャージーではなく、「あまりにも露出度の高い服」を着て選手村内を歩いていたという2つの理由から、「悪影響を及ぼす」と選手村から追放されちゃった。残念ながら彼女は大会後に引退を表明したけど、この事件のおかげか、インスタのフォロワーは67万人から120万人に増えたみたいだ。

 一方で「世界一セクシーなアスリート」として有名なドイツの陸上選手シュミットは、チームメートのブルマンから「彼女が400メートル混合リレーに選ばれたのは、モデルでインフルエンサーだから。記録は自分の方が上」と糾弾された。でも実のところ、ブルマンの彼氏がリレーのメンバーだったから、一緒に走りたくて言ったみたいだ。

 五輪とは「スポーツを通した人間育成と世界平和」を目的とする。でもパリ五輪は、これまでで最もその精神から遠かった大会かもしれない。

 なぜなら、今回優勝選手に払われた金額は史上最高に高かったんだ。それもスポンサーや各国からだけではなく、史上初めて国際競技連盟からもメダル選手に報奨金が出されるようになった。世界陸連は金メダリストに5万ドル(約735万円)の賞金を出したけど、これは128年の歴史の中で初めて。連盟までも金メダルに値段をつけるなんて、五輪のアマチュア精神に反する、平等性を欠くって、抗議の声もあるけど、世界陸連はどこ吹く風。IOCからの分配金から払ってるのだから問題ないんだって。

 でも、それならメダリストではなく、競技の発展全般に使うべきじゃないのかな。すでに国やスポンサーから賞金をいっぱいもらっているトップアスリートではなく、設備のない国に投資するとかね。IOCのバッハ会長も「国際競技連盟は、すべての加盟国とその選手たちを平等に扱い、恵まれた者と恵まれない者、あるいは不利な立場にある者との間のギャップを埋めようと努めるべき」って発言しているけど、そのバッハ会長の後釜は、現世界陸連会長のコー氏という呼び声が高いから、こうした賞金主義は今後どんどん進んでいくかもね。次のLA五輪で世界陸連は、金、銀、銅のメダル全てに賞金を出すって話だ。

 これじゃあ選手は、もはやカネのためにプレーすると言われても仕方ないよね。アマチュア選手の参加はより少なくなり、結局、カネのある国ばかりが勝つようになる。

 もう五輪自身が“クレージー”になっていくんじゃないかな。(おわり)

▽翻訳=利根川晶子(とねがわ・あきこ)埼玉県出身。通訳・翻訳家。82年W杯を制したイタリア代表のMFタルデッリの雄叫びに魅せられ、89年からローマ在住。90年イタリアW杯を目の当たりにしながらセリアAに傾倒した。サッカー関連記事の取材・執筆、サッカー番組やイベントで翻訳・通訳を手がける。「カカから日本のサッカー少年へ73のメッセージ」「ゴールこそ、すべて スキラッチ自伝」「ザッケローニ 新たなる挑戦」など著書・訳書多数。

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