著者のコラム一覧
小林至桜美林大学教授

1968年、神奈川県出身。91年ドラフト8位で東大からロッテに入団。93年に引退し、94年から7年間米国在住。コロンビア大でMBAを取得し、江戸川大教授を務めながら、2005~14年にソフトバンクホークスの取締役を兼任。現在は、一般社団法人大学スポーツ協会理事、一般社団法人スポーツマネジメント通訳協会会長。YouTubeチャンネル「小林至のマネーボール」も好評配信中。

プロ野球の「グッズ販売ビジネス」の儲けはどれくらい?

公開日: 更新日:

 在庫リスクは典型的に優勝記念グッズで表れます。9月の優勝に合わせるなら7月には発注が必要ですが、優勝を逃せばすべて“幻の商品”に。外注メーカーもリスクを嫌うため、凝った企画は断られがちです。実際、優勝直後に売られる記念グッズがアクリル製キーホルダーのような簡素なものに偏るのは、写真を差し替えるだけで転用できるからなのです。

 このジレンマを解決したのが米国発の「ファナティクス」です。1995年創業の同社は、企画から製造、販売までを一括で手掛ける垂直統合型のビジネスモデルで急成長し、“スポーツ界のアマゾン”とも呼ばれています。最大の強みはスピードで、発注からわずか4~5日で店頭に並ぶ。米国ではMLB、NBA、NFL、NHLとパートナー契約を結び、日本でも2018年に法人を設立。巨人ソフトバンクなど5球団が提携しています。利益率は内製に比べ下がりますが、在庫リスクがなく販売機会を逃さない点で経営合理性は高いのです。

 ただし、MDは球団収入の主役にはなりません。NPBに限らず世界のプロスポーツでも収益の柱はチケットと放映権で、MD比率はせいぜい10%前後です。広島のように内製を徹底して年間50億円規模、売り上げの4分の1をMDで稼いだ特異な例もありますが、他球団は10億から20億円程度にとどまります。優勝記念MDでも総売り上げは数億円、スター選手の引退MDで1億円に達すれば大ヒットです。

 プロ野球の屋台骨を支えるのはチケット収入ですが、MDはスタジアム体験を豊かにし、ファン・エンゲージメントを高める役割を担っています。経営的には補完的収入源であっても、球団にとっての戦略的重要性は小さくありません。

【連載】小林至教授のマネーボールQ&A

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の三振激減がドジャース打者陣の意識も変える…史上初ワールドシリーズ連覇の好材料に

  2. 2

    国民民主党から問題議員が続出する根源…かつての維新をしのぐ“不祥事のデパート”に

  3. 3

    党勢拡大の参政党「スタッフ募集」に高い壁…供給源のはずの自民落選議員秘書も「やりたくない」と避けるワケ

  4. 4

    「ロケ中、お尻ナデナデは当たり前」…「アメトーーク!」の過去回で明かされたセクハラの現場

  5. 5

    注目の投手3人…健大高崎158km石垣、山梨学院194cm菰田陽生、沖縄尚学・末吉良丞の“ガチ評価”は?

  1. 6

    夏の甲子園V候補はなぜ早々と散ったのか...1年通じた過密日程 識者は「春季大会廃止」に言及

  2. 7

    コカ・コーラ自販機事業に立ちはだかる前途多難…巨額減損処理で赤字転落

  3. 8

    巨人・坂本勇人に迫る「引退」の足音…“外様”の田中将大は起死回生、来季へ延命か

  4. 9

    高市早苗氏の“戦意”を打ち砕く…多くの国民からの「石破辞めるな」と自民党内にそびえる「3つの壁」

  5. 10

    「U18代表に選ぶべきか、否か」…甲子園大会の裏で最後までモメた“あの投手”の処遇