「老楽国家論」浜矩子著
■グローバル時代に国家が賢く老いるための提言
「みぞの鏡」というのがあるそうだ。ハリー・ポッター物語に出てくる魔法の鏡。そこに映るのは理想の自分、つまり「のぞみの姿」だ。鏡を見入ってうっとり見とれ、おのれを忘れて破滅する。そんな恐ろしい鏡。実はこれこそが現在の日本の姿にそのまま当てはまるのだという。著者はテレビその他のコメントでもおなじみの経済評論家。
日本は一刻も早く「みぞの鏡」の前を離れ、ほんとの鏡に映る自己像を見いださないといけないと警告する。それは「豊かさの中の貧困問題」をかかえた社会。わけても深刻なのが安倍首相の「日本を取り戻す」というお得意のキャッチフレーズ。これは、昔日の勢いを取り戻したいという意味だからだ。しかしグローバル時代には「取り戻す」べきものはない。国境が事実上無化された時代にGNP(国民総生産)を問うのは無意味。「国民経済」という発想は第2次大戦前の時代に確立され、世界を経済ブロック化し、戦争にも至った。いまのグローバル時代に同じ行動原理をとればSTATE(国家)が生き残ってNATION(国民)が苦しむことになるのだ、と警告する。国家が賢く老いるための提言。