「現代アラブ社会」加藤博、岩崎えり奈著
■アラブの春から3年
混迷つづくアラブ情勢。3年前の政変を機に振り返るアラブ世界の今昔。
■エジプト国民の意識調査が明かす真実
「アラブの春」と呼ばれた2010~11年の政変から3年。エジプト社会の混乱はますます深まり、「アラブの春」は欧米にそそのかされた結果だという声すら聞かれる。その間多数の書物が書かれたが、いずれも印象批評か現状の後追いにとどまる。
本書は革命前の2008年から10年、そして革命後の11年と、計3回にわたってエジプト中央統計局と共同でおこなわれた日本のエジプト研究者による意識調査の成果。
格差が大きく、政治的監視の厳しいアラブ社会でこうした調査をおこなうのは極めてまれなはずだが、特に革命前からの調査を含んだ点で画期的な業績といえよう。しかも驚くべきはその内容。たとえばエジプト政変は「若者の革命」とも呼ばれたが、調査の結果では地域、年齢、学歴、ジェンダーすべての点で大きな変化が見られた。ということは革命は全社会的であって、必ずしも若者や女性が特に強い主体となったわけではない、ということになるのだ。「民主化」志向より「政治的安定」志向が強いという結果も興味深い。一読に値する良書。